不機嫌のワケ

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 テスト期間が終わり、少しずつ普段の日常に戻っていく。図書室では、本の貸出返却をする利用者も増えてきた。それに伴い仕事は増える。  でも、ちょうどぽっかりと空いた時間ができた。私と藤沢先輩は受付で待機している。  私は隣に座っている先輩の横顔をチラリと見遣る。本を読んでいない先輩は、いつも通り不機嫌顔だ。眉間に皺が寄っている。 「なに?」  気付かれていないと思ったのに、チラ見がバレていた。めちゃくちゃ恥ずかしい。 「あのっ、先輩って本読んでる時はそうでもないのに、なんで普段はそんなに難しそうな顔してるんですか?」 「……」  しまった。慌ててつい本音が出てしまった。結構……いや、かなり失礼かもしれない。  私が急いで撤回しようとすると、先輩がそれより早くボソッと呟いた。 「文字が見づらくなって目を凝らしてたら、それが癖になった」  はい……? 「じゃ、じゃあ、眼鏡をかけるかコンタクトにすれば、その癖は直るんじゃ?」 「まだ見えるからいい」 「先輩……もしかして、病院嫌いですか?」 「……」  なんてこった、当たりらしい。  でも、いくら病院嫌いだからといってこのままにしておいたら、益々目が悪くなってしまう。  藤沢先輩は、おじいさんに勧められて歴史ものの本を読み漁っているくらいだ、きっとおじいちゃんっ子なのだろう。そして、お年寄りの中には病院嫌いな人もいる。たぶん、先輩のおじいさんは病院が嫌いだ。
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