不機嫌のワケ

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「アサガオの観察、みたいな」 「!」  先輩の表現に爆笑してしまいそうになった。  小学生の頃に誰もが経験するだろう、夏休みのアサガオ観察! でもまさにその通りだと思った。 「藤沢先輩、そのセンスすごいです。ピッタリ!」 「それから、オレを怖がらない。……最初は他のヤツみたいにビクビクしてたけど」  先輩が怖い人じゃないなんて、すぐにわかったから。 「……オレが眉間に皺を寄せてても、平井は怖くないんだろ?」  もちろん、といわんばかりに私は思い切りよく頷く。  それを見て、先輩は少し表情を和らげた後、照れたようにフイと横を向いた。 「なら、別にこのままでいい」  心臓がバクンと大きく脈打った。  こ、これは一体どういう意味なんだろうか? 私が怖くなければ、他の人に怖がられても構わない? それは単に、図書委員の仕事をする上で不都合がないから構わないという意味なのか、それとも──?  私に倣って、先輩も自分の読んでいる本の続きを読み始める。その横顔をそっと見てみると、案の定眉間の皺は取れている。  本を読んでいる時は、リラックスしている状態なのだろう。文字が多少見づらくても、本を近づければいいのだ。だから、眉間に皺を寄せる必要はない。今度は本に集中しているのか、私のチラ見には気付いていないようだった。  さっきの言葉はどういう意味なんだろう? 今はまだ、私が期待している意味ではないかもしれないけれど、そうなるといいな、なんて思ってしまう。  この先、どんな藤沢先輩に出会えるのか楽しみになる。今よりもっともっと親しくなれたら……言ってみようかな?  ──藤沢先輩、眼科に行きましょう!  今やトレードマークと化している藤沢先輩の眉間の皺だけれど、やっぱり勿体ない。本当の先輩の顔は、こんなにも穏やかで、優しいのだから。  本に夢中になっている先輩の横顔──。  すぐ隣で見られる自分の特権が何だか誇らしくて、私は得意げな顔で、小さく微笑むのだった。
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