とある冬の日~ハピメリ~

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「平井っ!? もう来てたのか!」 「はい……あの、こんばんは」 「章臣ったら騒々しい。はいはい、戻るわよ」  お母さんは私に「後でね」と言い残し、リビングを出て行った。先輩は私をチラッと見て、軽く頭を掻く。 「えっと……ごめん、今日は来てもらって」  先輩が気まずそうに俯き加減でそう言った。私は慌てて首を横に振り、そんなことはないという意思表示をする。むしろ、私は呼んでもらってありがたいのだから。 「いえ、すごく嬉しいです!」 「まどかさんは素直で可愛い、ええ娘さんだ」  おじいさんが目尻を思い切り下げながらそう言ってくれるので、私は思わず照れてしまう。 「章臣もそう思わんか?」  おじいさんに同意を求められ、先輩はグッと言葉に詰まった。  うわー、おじいさん、容赦ない。案の定、先輩の顔がみるみるうちに赤く染まっていき、それを見られまいと背を向けてしまう。  でも先輩、耳は隠しようがありません。真っ赤です。  久しぶりに先輩の初々しい反応が見れて、私は照れながらも心の中では拳をグッと握りしめていた。  最近の先輩はすっかりクールが板についてしまっていたので、この反応はたまらない。  あぁ、先輩こそ可愛い、などとオッサンみたいな感想を抱いてしまう私。けれどそれは仕方がない。可愛いものは可愛いのだ。 「章臣も可愛いと思うとるんだろうが。照れるな照れるな!」  更に追い討ち。先輩はたまらず、「わかったから! じいちゃん、はしゃぎすぎ!」と叫びながらリビングを出て行ってしまった。  おじいさんはニヤリと笑って「あいつもまだまだじゃな」なんて呟いている。……先輩、なんて気の毒な。
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