序章2 家庭環境

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

序章2 家庭環境

甘栗紅葉は極一般な家庭で生まれた。その家庭では初めての子供ということで愛情いっぱいに育てられた。しかし、紅葉が小学校入学当初にトラブルが起きた。  それは父親の突然の逮捕である。逮捕容疑は危険運転過失で歩行者を五人跳ね、二人を死亡させたというものだった。原因は脇見運転で信号を見落としてしまったものである。この事故を受け、紅葉の父親は緊急逮捕され、世間から犯罪者の家族とされた。  母親は自分の身を守る為に即離婚。殺人犯を自分から切り離した。  名前は旧姓だった甘栗を使い、完全に元の父親とは縁を切った。だが、紅葉の苦痛はここから始まる。母子家庭となった甘栗家は金銭に悩まされ、母親は働かざるを得なかった。紅葉は基本、家では一人で過ごすことになり、夕飯は少しずつ覚えて作るようになった。小学生ながらにして全ての家事をこなす紅葉は生活の知恵が身につくようになる。本当はそんなことはしたくないというのが紅葉の本音だが、やるしかない。自然と紅葉の中で疑問が生まれる。  友達は当たり前のように遊んだり塾に行ったりする。帰れば当たり前のようにご飯が用意されて家事もすることなく自分の好きなことをしている。それなのに自分は他の友達とは真逆でなんでも自分でこなさなければならない。洗濯、料理、掃除何もかも全部だ。この差はなんだろうか、と。  答えはすぐに出た。父親がいないからだ。稼いで来てくれる父親がいないことで自分は苦労していると。  母親は犯罪者と分かった瞬間、すぐに断ち切った。後先考えずに。例え、犯罪者だとしてもその程度の関係だったのか。そんな簡単に断ち切れるものなのか。ただ、お金としか見ていなかったのか。そんな疑問が紅葉を支配していた。  自分で選んだ選択に不安を口にする母親がどうしようもなく紅葉は嫌いだった。家にいることが苦痛でしかなかった。  それでも紅葉は自分を演じた。 「ただいま。今帰ったわよ」 「おかえりさない」 「ご飯食べた?」 「うん。カレー作って食べた。お母さんの分もあるよ」 「ありがとう。いつもありがとうね。本当は私がしなくちゃいけないのに」 「いいのよ。お母さん、仕事大変そうだし。せめてこれくらいしなくちゃ」  母親の前では寂しそうな顔はしなかった。いつも笑顔で何でもない素振りをするのがやっとである。  自室に篭った紅葉は一人でいると現実に戻ってしまう。  自分は貧しく生きているのがやっと。学校でも自分を演じるのにも疲れ切っており頭を抱える。本当は周りの子たちと同じように休日に家族で出かけたり、塾や習い事をしたり、放課後に友達と遊んで駄菓子を食べたりゲームをして過ごしたい。  しかし、今の紅葉には夢のまた夢。不安とストレスが日々溜まる。そんなストレスの発散方法は学校だ。誰も見ていない隙に上靴や教科書等を隠し、無くなったことに気付いた子が不安になり探し回る姿を見て喜んだ。勿論、後日無くなった物はそれとなく本人の気付きやすいところに置いて何事もないように振る舞う。それだけで良かった。 しかし、そんなことをしても不安もストレスも消えることはない。 そんな不安定な生活を続けていた十二歳のある日、紅葉は決断した。 「そうだ。家出しよう」  紅葉は閃いたことをすぐに実行に移した。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!