13 境界線の向こう側

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13 境界線の向こう側

 俺、羽村リョウジはうんざりしていた。  来る日も来る日も呪いにバケモノ、本当、狩人ってのはイカレてる。  今回もまた、お決まりの縁条市の夜の片隅で、目の前でフィーバーこいた異常者が巨大怪物を具現化させようとしている名場面だった。  その、台風のように暴風を巻き散らかしながらカタチになっていくネズミザメ目ネズミザメ科を見て、俺は暴風に飛ばされそうになりながらぼやく。 「あの先生。宙を泳ぐ巨大サメのバケモノなんて、一体どうやって倒せばいいんですかねぇ」 「あぁん? 斬ればいいだろ、斬れば。じゃなきゃ殴れ。なんなら蹴り殺せばいい。とりあえず殺せば死ぬだろうが」  だから、どうやって当てればいいんだって聞いているのだが。とかやってる間に、空中ジョーズが具現化を終えていた。大迫力で失神しそうになる。 「ひゃははははははははははは! 殺せ、何もかもを食いちぎれ! ズタズタに引き裂いて見せつけてやれ!」  異常者はフィーバーしている。どうでもいい。この場合、注意すべきはサメの方だ。 「! 来るぞ!」 「はい先生! お願いします!」 「チィ――働けこのクソ弟子が!」  んなこと言われたって、この無能に何もできるはずがない。別に怪力持ちとかでもなんでもないし。  先生とジョーズが激突し、金属音が巻き散らかされる。激闘。あまりにも激しいので、念の為アシスタントの双子霊に周囲を異界化させ、余計な目撃者を生まないようにしておく。俺は戦線に立つよりサポート業務の方が得意だ。  と、そこで視界の端にさらりと流れる赤髪を見た。 「おまたせ、遅くなってごめんね」  いまにも折れそうな、華奢な肩。赤い髪に、まっすぐ前を見据える瞳。赤い髪の少女。 「おう、来たかアユミ。待ってたぜ。あっちの方は片付いたのか」 「うん、巨大タコ。かなり面倒だったけど沈めてきたよ」 「そいつは頼もしい」  目の前には激闘。俺も相方が来たので、ようやく前線に立てる。 「じゃ、いきますか」 「うん。いつも通りやろう」  肩を並べ、それぞれの武装を構えると派手に金属音が鳴った。俺は短刀、アユミは二刀短剣。  そこでふと思い出して、隣に立つアユミの凛とした横顔を見る。 「………………」  少し前まで、アユミは戦いの場に立つ時は苦しそうだった  殺せない狩人。  自分の在り方に迷い続けて、結論が出せず、戦場に立つたびに震えていた気がする。  それが、あの日。  血まみれの右手を俺に掲げて見せた日以来、何かが変わったのだ。  ――――境界線の向こう側。  狩人の日々は苛烈で、残酷な事件ばかりが続く。  これからもきっと無残な結末ばかり見続けることになるだろう。  あの日、アユミを止めることができなかった俺の後悔なんてまったく何の意味もなく。 「いくぞ!」 「はい!」  まるで何かを受け入れたかのように――  アユミの震えは収まっていた。           / 殺人 - murder and hunter -
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