プロローグ

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 3 ▷榛名    美希は駅ビルの中にある昔ながらの小さな居酒屋で日本酒を煽っていた。灰皿のスリムのタバコはいつの間にかフイルターを焼き、静かに白い灰の中で頭を垂れるように折れ曲がる。よろよろと千鳥足で自宅に向かった。すっと何かが頬を撫で、自分が泣いていたことに気付いた。 「ああ、イライラする」  よろけながら自室にあるパンチングボールを叩き倒した。それはすぐに立ち上がり、美希に反撃した。それをもう一度、もう一度と叩き倒し、ベッドに倒れ込んだ。    :     ――『お前見てっと、がむしゃらだった俺の若え頃思い出すんだよな』と里井部長に言われてから、私……。    菜々葉は三年前、美希から信也を奪った女だ。    :  :    いつの間に眠ったのか。美希は着替えもせず眠っていた。煌々とした照明の中、ふと目を覚ました。カーテンから見える外はまだ暗い。近くを通る私鉄の高架は珍しく静かだった。新聞配達のバイクがパタパタと軽快な音を立て走り去る。パンチングボールの下で伏せるように落ちていたスマホの着信ランプが青白く光っている。    ――信也さん……?    スマホのスクリーンには榛名(はるな)という文字が浮かんでいた。    榛名は〇〇情報サービスの取引先、地方銀行の顧客情報管理部の主任で、美希のセフレの一人でもある。彼によると、妻と幼い子どもがいる、と言っていた。    榛名にラインを送った。   『榛名さん、まだ起きてます?』    即座に返信の着信ランプが光る。
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