プロローグ

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 一人黙ってバスルームに入った。既にシャワーを浴びた榛名はドライヤーで髪を乾かしている。これが榛名とのルーティンだった。美希は冷水のシャワーを頭から浴びた。榛名のドライヤーの音が飛沫にかき消される。花びらのように排水口へと吸い込まれる白濁を見ていた。  ――何やってんだろ、私……。    まだ身体の奥に榛名の名残りが残っていた。セフレとの激しいセックスの後は、決まって虚しさに襲われる。   『自分の身体は、もっと大事にしねえと……』    いつだったか、酒の席で里井にキスを迫ったことがあった。その時、里井は美希を叱らず、静かに諭された時に言われた言葉だ。    ――あの頃に戻りたいな。  美希の頬に涙が滑った。    髪を乾かし、バスルームから出た。榛名はベッドの向かいにあるソファーにふんぞり返って座り、タバコをふかしていた。バスルームを出た美希に目をやると、タバコを灰皿に押し付けた。   「坂村さん、これ、しばらく預かってくんないかな」と、榛名は自分のスーツの上着のポケットから取り出した美希の小指の長さほどのメモリースティックを美希に手渡した。
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