追われる

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追われる

 0 ▷足音  カツッ、カツッ、カツッ……。    美希のヒールの高いパンプスの固い足音の後に、重量感のある革靴が早足で近づく。視野の縁で見えるのは黒い服を着た男だ。午後六時半。まだ明るかった。美希が歩を止めると、その足音も止まる。    ――追われてる?    美希は走った。不意にビルの間の薄暗い路地に入る。息が弾んでいた。美希は蒸し暑く、脂と小便臭いそこで自分の唇を手のひらで覆い、呼吸を抑えた。息を潜め、通りを気にする。美希の背中から聞こえていた革靴の音は雑踏の中に紛れ、早足で消えた。    ふう……。    周りを気にして、流しのタクシーを止めた。スマホをバッグから取り出し、榛名に、誰かに追われているの、とラインメッセージで送った。    直ぐにスマホの着信音が鳴る。榛名からだった。   『アンタも犯罪に加担してるんだよ』と、息を吐き捨てるように言った。   「な、何よ。犯罪って」    榛名からの着信が切れた。    :  
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