追われる

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 タクシーは私鉄の○☓駅のロータリーに静かに滑り込んだ。私鉄の高架に沿って数分歩くと菜々葉と信也のマンションがある。まだ人通りは多かった。美希は視野の縁で自分の後ろを気にしながら歩を進めながら、スマホの信也の名前をタップした。    ――信也、早く出て……。    背後から革靴の音が近づく。美希は私鉄の高架の向かいにある古いマンションのエントランスホールに飛び込んだ。切れかかった蛍光灯の灯りが点滅している。美希が自動ドアのガラスに目を配ると、高架の下を走る路線バスがそこに映っていた。胸を撫で下ろした。大きく息を吐いた。ブランドのシガレットケースから取り出したスリムの煙草を咥え、バッグの中に入れたライターを探る。後ろから肩を軽く叩かれた。    ――ひっ……。    膝の震えが止まらなかった。    スーツの男が美希の視野の縁にあった。身体が凍りついたようだった。
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