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美希の席の右斜め前は奈々葉のデスクだ。彼女はもう自分の席にいた。超ナチュラルメイクの彼女の頬はほんのりと赤みがかったピンク色で、ぱっちりとした瞳は少し潤んでいるように見えた。
「おはよう。奈々葉」
香水を振っているのか、珍しく奈々葉の方から少し甘い香りがしている。いい香りだ。
「あ、美希ちゃん、おはよう……」
菜々葉のアーモンドのような瞳は潤んでいた。
――「昨夜は部長としましたか」とは女の子同士でも聞き辛いよ。
美希は「…………でさあ……」と話題を切り出す。
――奈々葉が、はい、と言いませんように……。
「あっ……うん……」と、何かを読み取り菜々葉が頷いた。
――あっ、うん、……か……。
「だけど……」と、奈々葉が続ける。
――……だけど?
「……ああ、いい、いいよ。奈々葉。親友でも言えないこともあると思うし……」と言うと、美希は自分の席を立った。
美希が新人の頃、「お前見てっと、がむしゃらだった俺の若え頃思い出すんだよな」と里井にしみじみと言われたことが頭をよぎる。
――……ったく、苦い思い出……。
新人の頃――もう三年以上前のことは忘れたが、その言葉は今でも憶えている。
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