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展望デッキは昼食の時だけ社員に開放される最上階の部屋で、通常は資料室として使われている部屋だ。その奥で数名の者がざわざわと食事をとりながら話す声がしている。
二人は入り口から一番遠い南側の窓際に座った。 背の高い書庫があるこの場所は、ひと目に触れず静かに会話ができる社内恋愛にもってこいの場所だ。
菜々葉は黙々と持参の弁当を広げた。美希はコンビニのサンドウイッチのシールを切り、缶コーヒーのプルタブを引く。
菜々葉の肉厚の唇が動き始めた。
「……私、部長に……キスしちゃったの……」
――キス……。
「えっ、う、ウソ……? ちゅ、チュウ……?!」
――チュウ……。
あまりにも唐突な言葉だった。自分の目に涙が溢れるのが分かった。気づかれないよう、菜々葉から目を逸らす。出そうになるため息を圧し殺した。膝が小さく震える。
周囲の話し声のボリュームが小さくなった。近くの壁掛け時計の秒針を刻む音がやけに大きく響いていた。その音は美希自身の心音に同期しているようだった。
奈々葉は目だけで辺りを見渡し、顔を縦に振りながら人差し指を自分の唇に当てた。
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