羊水に浮かぶ

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 「そんで、何で三日後なんだ?」  横並びで牛丼を食べながら、遠野はそう聞いた。場所を変えようと三井が遠野を連れ出したのは、バーから程近いファストフード店だった。  つゆだくを食べながら三井は言った。「俺は、あと三日で三十になる」 「それは、おめでとう」遠野は豚丼に箸を伸ばした。 「俺の親父は二十九で死んだ。刺されてな。三十になれなかった」と、三井は言った。「俺は、自分の人生に満足してる。だけどな、親父より早く死ぬのだけは御免だ」 「そうか」 「俺の望みはな、あいつより一日でも、数時間でも長く生きる事だ」 「なるほどね」遠野はそう言い、丼に入っている半透明の玉ねぎを三井の器に移した。「なんだかんだ言って、男っつうもんは父親の陰に縛られる生き物だからな」 「そうだな」三井は大盛になった玉ねぎに特に何も言わなかった。「そんで、計画はあるのか?」 「計画?」 「俺を殺す計画」 「そうだな。何が良い?銃、ナイフ、ロープ」  三井は考え込むように腕を組んだ。 「銃はアシがついちまうしな。血は面倒だ。ガスか薬か……」 「じゃあ、薬にしよう。その方面に知り合いが何人かいる」 「なるべく、苦しまないやつにしてくれよ」 「オーケー。薬で殺した後に自殺偽装でもしておくよ」 「上手くやれよ」と、三井は言い、牛丼を搔き込んだ。
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