羊水に浮かぶ

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 休憩中の看板を立てた中華屋、目の前にはガムテープで縛られた男が転がされていた。 「なあ、強情を張るな」と、遠野は言った。「金があんのは知ってんだ」  五十代半ばの店主は亀のように首を伸ばし、必死に食い下がった。 「明日までに支払わなきゃいけないんです。店が潰れてしまうんです」 「じゃあ、ギャンブルなんてしなきゃ良かっただろ?女房騙して、子供の学資保険にまで手を出して」 「明後日には、明後日には必ず――」 「聞き飽きた」遠野はうんざりしたようにそう言った。それから、二階で家探ししている弟分に声を掛けた。「見つかったか?」  階段から声が落ちてきた。「いや、見つからないっすね」  遠野は声を張り上げる。「屋根裏とか植木鉢、トイレのタンクは見たか?」 「まだっす。見てみますね」  遠野は店主に振り返った。「見てみるってよ」  店主はだんまりを決め込んだ。遠野は店主の表情の変化をつぶさに観察しながら煙草に火を点けた。 「なあ、お前、この仕事は長いのか?」  店主は困惑気に顔を上げる。「ええ、まあ、三十年以上は。ここは親父の代からやってる店で――」 「この仕事は好きか?」 「そ、そうですね。はい」 「そうか。天職ってやつだな」  遠野は半分ほど吸った煙草を床に落とし、踵で踏み潰した。
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