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「教えて欲しいんだけどよ、やりがいもなく、楽しくもない仕事を一生涯続けなきゃいけないとしたら、お前はどうする?」
店主は一瞬、言葉に詰まった。「俺なら……辞め、ますかね」
「そうだよな」と、遠野は言った。
それを聞いた店主は安堵したような表情になった。
「天職なのに残念だ」遠野はそう言い、アタッシュケースを開いて店主の目の前に置いた。「ほら、手を出しな」
店主は激しく首を振った。「そんな、勘弁してください」
「これでも俺は親切にしてやってんだぜ?指が何本か折れるだけだ。しかも左手だ」
遠野は店主の左手を無理やりアタッシュケースの隙間にねじ込んだ。指を四本、第二関節まで。親指はおまけしておいた。
遠野はケースに手を置く。「ほら、金は何処だ?」
とうとう店主は泣き出した。「明後日には必ず返しますから!」
ケースに少しずつ体重を乗せる。「そう言って、何度も期限を破っただろ。ほら、早く言わないと」
「止めて下さい、止めて!」
「ほらほら、十、九、八、七」
「金なんてない、本当です!」
「六、五、四、三」
「分かりました、お金は――」
その声を打ち消すように、階上から声が降ってきた。「ああ、ありました!タンクの中、ビンゴでした!」
「あらら、残念」遠野はそう言い、アタッシュケースに全体重をかけた。鈍い音が響き、蛙が潰されたような声が聞こえた。「時間切れ」
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