羊水に浮かぶ

7/11
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 翌日、三井に呼び出されたのは駅前の公園だった。時刻は昼の一時頃、三井はベンチに座って鳩に餌をやっていた。  三井は顔を上げ、「来たか。ちょっと付き合えよ」 「何だ?これからデートでもするのか?」  外には高級外車が停まっていた。二人は車に乗り込み、都道を北に走らせた。遠野は助手席からミラーを覗いた。案の定、黒塗りの車が後をつけてきていた。  道中、三井はコンビニに車を停めた。  遠野は財布を取り出し、「ついでに水と煙草を買ってきてよ」 「俺はお前の舎弟じゃねえよ。自分で買ってこい」 「免許証忘れたんだよ」遠野はそう言って、両手を合わせた。「頼むよ、三井さん」  再び車に乗り、辿り着いたのは郊外のボウリング場だった。三井は受付を済ますと靴を履き替え、レーンにさっさと向かった。 「なあ、何でボウリングなんだ?話をするんだろ?」 「するさ。投げながらな」三井はそう言って、教科書のような美しいフォームで球を投げた。球は緩く右にカーブすると、十本のピンを全て倒した。見事なストライクだった。 「お前もやれよ、見てるばっかじゃつまらねえだろ?」 「俺、ボウリングなんてやった事ねえよ」 「そんなに難しくねえだろ」  三井に言われ、遠野は見よう見まねで球を投げた。ボールはサイドに当たってガターになった。液晶画面にGの文字が映し出される。 「つまんねえ」と、遠野は悪態をついた。  三井は二投目に入っていた。「それで、薬は手に入ったのか?」 「ああ、即効性のやつな。飲み物に溶かして飲めばイチコロよ」  三井はまたストライクを取った。遠野も続くが、またもやガターになってしまった。 「お前、運動音痴だな」と、三井は言った。「小学校の時も悲惨だったろ?運動会でコケるようなタイプだ」 「生憎、ガキに交じって駆けっこなんてした覚えはないんでね」  三井は鼻で笑う。「お前もガキだったろ」 「うるせえ」  三井は言いながらレーンに立ち、またもや奇麗なフォームで球を投げた。またもや見事なストライク。 「負けた奴が奢りな」と、振り返って三井は言った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!