焼き鳥と、赤ワインと、ないものねだり

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 コンペ当日、手嶋が“最近、キレイになった?”を略して“サイキレ作戦”と名付けたこの企画の企画書を携えて事務所を出る時には、戦地へ赴く兵士のごとく若手に見送られた。 「死んでも、帰って来て下さいね」 「死にはしないからいい子で待ってな、須賀」 「姐さん……ご無事で」 「乗るんじゃない、木村」 「報電社の奇襲にお気をつけて」 「良いから仕事しなさい、手嶋」 「サイキレ作戦、始動っすね」 「守屋……後、頼んだわよ」  厨二を患っている手嶋のせいで、今回の仕事が軍事物っぽく脚色されている。  アニメ広告にしたのが、手嶋の闇に火をつけたらしい。    報電社は、男性アイドルグループを起用したCMとSNSを駆使した、大手らしい洒脱な打ち出しだった。    こっちだって、負けない。  アニメに声優、旬の素材と、悩める大人女子を引っ張る吸引力は、この一言に詰まってる。 「最近、キレイになった? これをキャッチフレーズに当社が注目したのは、サスティナビリティ。持続可能性を考えました」  アドバイザーの教えも、研究の成果も、まずユーザーのやる気がないと届かない。  不法投棄されたゴミ山を抱えているのは、多分私だけじゃないのだ。  頑張っているあなたを、見つけたい。  最近、キレイになった? って言われたい、君を見つけたい。  気付いて欲しい。一人じゃないから頑張れるって、知って欲しい。 「御社の研究の成果も専門知識も、プロのアドバイザーも、全てがユーザーの味方であることを、伝えたい。当社はそう考えております」  プレゼンが終わると同時に、パチパチと小さな拍手が聞こえた。  控え目に手を叩いていたのは、研究員の牧だった。  徐々に、牧に倣った社員達が手を叩き始め、私は恥ずかし気に一礼してその場を離れた。
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