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あれから、街中であの言葉が流れる度に、私は頑張ろうと思える。
社内では報電社から勝ちを奪い取ったとして、“下剋上阿久根組の変”なんて、呼ばれている。
コンペを勝ち取った私たちは、K社の広告業務の一部引き受けることとなり、かの研究員の牧とも交流が続いていた。
仕事で立ち寄るたびに、牧に色々と教えてもらっている私は、前ほど肌荒れに悩むこともなくなっている。
忙しさにかまけて、自分を疎かにしていた私の起死回生は、ないものねだりではなく、あるものを磨くことで続いている。
「お前、あの牧って研究員と仲良いよな?」
「何? 妬いてんの? 原」
誰の為に、毎日頑張っていると思ってんのよ。
「べっつにぃ?」
「あんただって、あの野崎って営業さんと仲良いでしょ?」
「ばっか! 野崎さんは、報電に彼氏いんだよ! あの人は俺から情報取るために……」
「え、何か漏らしたの? あんた」
「漏らしてねぇわ。ちょっと……したけど……」
「した? したって、言った今?」
「致してません! 情報操作したの!」
「あぁ、ビックリした……」
「何? 妬いてんの? 阿久根」
「はぁ? 何で私がっ……」
振り返った先にいた営業部のエースは、見たことない情けない顔で立っている。
「どしたの? 原」
「俺は、妬いてるよ」
「へ?」
「焼き鳥」
「え?」
「行こうぜ」
「焼き鳥、焼くの? 自分で?」
「お前、何言ってんだ?」
「だって今……妬いてるって言った?」
私のその言葉に、原は答えることなく前を歩き出す。
後頭部の後ろで組まれた長い指、耳障りのいい声、いつもの清潔な柔軟剤の香り。
いつから、その全てにこんなに胸が鳴るようになったのだろう。
「ねぇ、原」
私、最近、キレイになった――――?
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