ブレザー少女の悲運

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ブレザー少女の悲運

 実在した英雄、物語の主人公、特撮、美少女戦士――誰しも子どもの頃、一度くらいはヒーローに憧れたものではないだろうか。  この街の女子高校生、江ノ島美里(えのしまみさと)も、その一人だった。物心ついた時にはもう、兄と一緒に正義の味方が登場する番組に夢中になった。テレビの画面にかじり付き過ぎて、邪魔だ、と兄によくののしられたものだった。テレビ画面を間近に観過ぎたせいだろう、小学校に上がる頃には眼鏡が必需品になった。 「♪この世の悪をけちょんけちょん、正義のヒーロー、メタルランナー!」  彼女は今日もヒーロー番組の主題歌を歌いながら、高校までの道のり、自転車をこいでいた。衣替えが待ち遠しいこの季節、長袖で汗ばむ身体に当たる風が気持ちいい。セミロングの髪が後ろに流れていく。住宅街の合間のアスファルト。自動車があまり通らないので、ついつい道の真ん中を走ってしまう。 「!?」  突然、美里は左右のブレーキレバーを強く引いた。一瞬だけ後輪が浮いたような気がする。  彼女が急ブレーキをかけたのも無理もない。道路の真ん中、彼女のルート沿いに、茶色いボールのようなものが置かれていたのだから。 「な、何?」  自転車に跨がったまま、辺りを見回してみる。子どもが遊んでいて、転がってきたものかもしれない。  いない。子ども以前に、人が自分以外にいない。  美里はもう一度ボールのようなものを見ると、首をひねりながら自転車を降り、道路の隅に寄せた。スタンドを下ろして自転車を固定してから、ボールのようなものに近付いていく。ブレザーの制服のスカートが地面に着くのもお構いなしに、ボールのようなものの前にしゃがんだ。
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