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若旦那はぶつぶつと文句を言いました。いつものことです。若旦那は体躯は立派だけれど、心が女々しい。男らしさはまるっきりないのです。だけど、実はそれが若旦那の良いところでもあります。若旦那は口では色々言うけれど、僕から毛布を取り上げようとは絶対しないのです。
(あと十分経ったら、ここを退くか。やれやれ、まったく世話が焼けるご主人様だね。僕の気持ちも考えるってことをしないんだから)
僕は目を瞑りながら、こんなことを考えていました。
ペラッ。
紙がめくられる音が聞こえきます。きっと、若旦那はまた物語の世界に入っていったのでしょう。この人にとって、小説は人生の半分なんだ。彼の半分小説の世界で生きているのです。僕はたまに若旦那の抜け殻を見かけます。そんな時、若旦那はここではないどこかに行ってしまっているのです。
ペラッ。
僕はこの紙が擦れる音が好きです。それに、若旦那の息遣いも、そして、沈黙も。僕の側に誰かいるっていうだけで、僕は安心できる。
ペラッ。
(本って、一体何だろう?僕には分からない。それは鰹節よりも良いものなのかな?あるいは、白い毛布よりも?)
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