若旦那

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 机の上に平積みされていた本は床の上に落ちました。僕はそうっと机の上から床を見ました。床の上には無残な本たちの死骸がありました。あるものは背中から天井に向け、歪に紙のページを曲げていました。またあるものは、天井に自身の中身を曝け出していました。 (よしよし。これでようやく眠れるぞ!)  僕はゆっくり背伸びをし、身体を丸め、目を瞑りました。 どのくらいの時が経ったのでしょうか。誰かかが家に帰ってきました。玄関が開く音が聞こえます。足音は徐々に部屋の方へ近づいてきます。  ガチャ。  若旦那が部屋に入ってきました。そして、勉強机を見ました。僕は少しだけ目を開けながら、若旦那の様子を伺いました。 「ああ!」  若旦那は床の上に転げ回った本の死骸を近づきました。そうして、本一つ一つをゆっくりと眺め、折れ曲がったページを直しました。しかし、折れ曲がったページは元には戻りませんでした。過ぎてしまった時を取り返すことができように。若旦那はただじっと本を見つめ続けていました。その時の若旦那の顔は今でもよく覚えています。
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