若旦那

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 ああ、僕は知らなかったのです。若旦那がどれだけ本を愛し、また、本に取り憑かれていたのかを。彼の顔は憤怒に満ち溢れていました。僕は初めて、若旦那の怒った顔を見たのです。そうなのです。生き物って奴は、本当に怒ってしまった時、殺意を顔に滲ませるのです。僕はすぐに身体を起こし、駆け出しました。もしあの時その場に居続けたら、僕はもうこの世にはいなかったでしょう。  それ以来、僕は若旦那の部屋には入りませんでした。  ペラッ。  僕は若旦那をチラッと眺めました。若旦那は本に夢中でした。小説を読んでいる時の若旦那は、いつも幸せそうです。若旦那にとって「幸せ」は、小説の中にしかないのです。  
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