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「俺、避けられてるのかなぁ……って思ってた」
「あれは、違うよ。緊張してたの。ほら、佐伯くんとあんまり話したことなかったから」
「確かに……なかった。なんでだろ」
「話すきっかけが……なかったからかな」
「うん、そうかもしれない」
話しかける理由なんて、どこにでも落ちていたはずなのに。
見つけて拾う勇気がなかっただけの臆病な私。
「あの時……実は俺も、すごく緊張してた」
少し照れ臭そうにして、佐伯くんは言葉を続ける。
「あの日、言おうと思ってたんだ。雨が止む前に…………良かったら〝さくら祭り〟一緒に行かない? って」
トクンと、鼓動が波打つ音が分かる。
ゆっくりと加速して、胸に小さな何かを生む。
ーー桜の花。
中学生の頃、感じていた感覚と似ている気がした。
「……さくら祭り?」
「ほら、それ」
そうポスターを指し示すと、彼は思い出すような口振りで静かに話す。
「やっと誘う決心が着いたのに、雨が止んで。 タイミングと言うか……帰る雰囲気になったから、言えなかった」
途切れてしまった言葉には、そんな続きが隠されていたなんて思いもしなかった。
「ずっと後悔してた。あの時、言えなかったこと」
「私も、なんだった? って聞き返せなかったこと、何回も思い出してた」
終止符を打ったはずの気持ちが、蘇るように溢れ出てくる。
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