花時雨《はなしぐれ》

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 好きじゃないけど、鼻をつまんで飲み込めばピーマンも食べられなくはない。果たしてそこまでしなければならないものかとは思う。  友達の友達だから、余計に返答を迷うのだ。  なんだかなぁ……。  人生って、こんなに窮屈(きゅうくつ)で退屈なものだったかな。  いつからだろう。こんな()び付いた感情に(とら)われるようになったのは。  あの頃……中学生の頃は、何もない些細な毎日に没頭して生きていたと思うのに。 「あの……」  同席していた見知らぬ男性から、突然声を掛けられた。驚きよりも先に、落ち着きのある大人の声色に心臓が反応する。  初めて聴くはずの声に、どこか昔を思い出すような心地良さを感じたから。  中学3年間、私が片思いをしていた相手。  ーー佐伯(さえき)(あらた)。  すぐに彼の名前が脳裏を過ぎった。  合うはずがないと思い込んだピースを、遠い記憶のパズルに当てはめてみる。  シャープな輪郭、凛々しい瞳だけど柔らかな印象を持つ顔の感じや、艶のある黒髪には面影がある。 「やっぱり、赤根(あかね)さんだよね?」 「……はい。もしかして、佐伯くん?」 「俺の名前、覚えててくれたんだ」  昔と変わらない優しい笑顔は、私の心臓をおかしくさせる。  ーー思い出した。この待合小屋は、私が中学3年の時に雨宿りをした場所だ。 「もちろん、覚えてるよ」 「こんなとこで会うなんて驚いた」 「……私も」 「あの日も、こんな感じの通り雨だったよね。確か……花時雨(はなしぐれ)だっけ?」 「うん、そう。花時雨……だね」
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