花時雨《はなしぐれ》

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 中学の入学式。教室で初めて佐伯(さえき)くんに会った時、一目惚れした。  落とした消しゴムを拾ってくれた「はい」だけの短い言葉。優しい笑顔と声変わり途中の不安定なハスキー声。  その瞬間、私の胸に小さな桜の花が咲いた。  日を追うごとに、その花は少しずつ数を増やしていった。  授業を聞く真剣な横顔、楽しそうに友達と話す笑い声、汗を拭うバスケ部の練習に、(まれ)にする現代文のうたた寝。  偶然触れ合う視線。  私たちの間に、特別な〝何か〟はない。  ただ、見つめているだけで幸せと思える瞬間が、そこにはあった。  中学3年の冬頃から、卒業してからのことを考えていた。佐伯くんは県外の有名私立高校、私は県内でそこそこの高校へ受験が決まっていたから。  当たり前に進路はバラバラで、それがこの片思いに終止符を打つ時だと気付いた。
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