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しとしとと雨粒が小さくなり始めたのは、私たちが待合小屋に駆け込んでから、しばらくたった頃。
沈黙した何もない5分間は、夢中で見る読み切り漫画より長く感じた。壁に貼られた『椛の湖さくら祭り』のポスターと、変わる気配のない同じ空ばかりを見ている。
それでも、私たちは重い腰を上げようとしない。
今ここを出ると、小雨とは言え、濡れて帰らなければならないのは確実だから。
彼の理由は、きっとそんなところだろう。
ふと、足元に視線を落としてみる。散った薄紅色の花びらが、寂しそうに運動靴の下敷きになっていた。
思わず足を上げてしまう。踏みつけていた桜の花は、まるで私の心から飛び出した彼への気持ちに見えた。
「……桜?」
同じように、佐伯くんが片足を上げて地面を見た。
「もう咲いてるんだ。どこから飛んで来たんだろ」
彼の言うように、この近くに開花している桜の木は見当たらなかった。
まさか、本当に私から生み出されたのかと思ってしまう。
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