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「花時雨だ……」
そんな言葉がぽろっとこぼれる。
心の中で呟いたつもりだった。独り言……やってしまったと唇をキュッと噤む。
「花時雨って、どういう意味?」
少し低めの落ち着きある声が、雨音だけの空間に響いた。
「桜の時期に降る、通り雨のこと」
可愛げのない話し方。
佐伯くんと話す時の自分がとてもキライ。
意識していることに気付かれたくなくて、素っ気ない態度を取ってしまう。
「ふーん。昔の人って、なんでも綺麗な言葉にするなぁ」
ーー好き。
その言葉だけが、雨音と共に胸の中で大きくなっていく。
せっかく話せる機会が訪れたのに。
神様がくれたチャンスなのに。
ふたりきりの時間は、想像以上に辛い。緊張しすぎて息が詰まる。
「……また、雨ひどくなったね」
「そうだね」
「明日、もう卒業か……」
「…………やだな」
無意識に流れ出る感情。それはもちろん、友達や先生に対してでもあり、一番は佐伯くんと離れたくないがための声。
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