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やまない雨
あの頃は、物事に理由なんて要らないと言いながら、常に何か理由を探していた気がする。
結局、話しかけるきっかけを作れず想いは伝えられないまま、私は中学を卒業した。
高校生になってしばらくして、他の人を好きになった。見た目も性格も、佐伯くんとは真逆の人。
その人への気持ちは、半年も経たないうちに終わってしまうのだけど。思い返すと、ただ忘れる理由を見つけたかったのかもしれない。
あの時、彼に「なんだった?」と聞けていたら、「好き」と伝えられていたら……私の人生はどう変わっていたのだろう。
何度も思い出しては、後悔を繰り返していたように思う。
それが、こんな形で再会するなんて。
やっぱり神様は意地悪だ。
「懐かしいなぁ。ここの感じ変わらないね」
「ほんとだね」
もう10年も月日は流れているのに、ここだけタイムスリップしたみたいに同じ雨音が響いている。
声や見た目は、互いに変わっているのに。
「……赤根さん、俺のこと苦手だった?」
「まさか……! どうして?」
「あの時、ずっと横のポスター見てたから」
彼の指す方向には、昔と同じ位置に『椛の湖さくら祭り』を告知するポスターが貼られている。
恥じらいを紛らわすため、穴が開くほど見つめた面白味もない紙が誤解を作っていたことを知った。
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