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恋心を隠し続けてきた少女
「ずっと言えなかったけれど、好きでした。」
卒業できると信じて疑わなかった学校の、人気が少ない校舎裏で、アオイはハルマに告白をした。
アオイの胸につかえていた重りが、ようやく溶けて消えたようだった。
何回もシミュレーションをして、胸に秘めて大事にしてきた言葉だったのに、口から出てハルマに伝わった後は、ハルマが何を考えているのかわからないので、完璧だと思われた言葉をもう一度頭の中で反芻するも、どこか告白をした自覚は伴わなかった。
ーー私はたしかに、言えたよね?
しばらくの間、沈黙が続いた。
ハルマが微動だにしないので、アオイが不安になったところで、わずかに、ハルマの口先が動いた。
ハルマはキュッと口を閉じた後、もう一度開き、言った。
「まさかアオイがそんな風に思ってくれていたなんて……。応えられないことなんて、アオイが1番わかってるんじゃないか……ごめん。」
「うん……。」
ハルマの言う通り、アオイは答えを知っていた。
それでも、伝えずにはいられなかった。
ーーだって、明日には、消えちゃうんだよ?
アオイとハルマは幼なじみで、今年のクラス替えでも同じクラスになれたことをお互いに喜んだ。
その時は、アオイもハルマに恋心を抱いておらず、純粋に友達だと思っていた。だからこそ、変わらず仲のいい幼なじみでいられると、アオイ自身思っていた。
変化があったのは、ハルマが、アオイの親友のヒマリに恋をしてからだ。
アオイがハルマと喧嘩をして落ち込んだ時、仲直りさせようと奮闘したのがヒマリだったのだ。
ヒマリの努力のおかげで、アオイとハルマは仲直りできたのだが、その間にヒマリとハルマの距離が縮んだことは必然だった。
それから毎日ハルマは、アオイに報告や質問をしに現れては楽しそうに言うのだった。
「アオイ、聞いてくれよ。今日ヒマリが、家庭科で作ったクッキーをくれたんだよ。これって、俺にもチャンスがあるんじゃないかな?」
「……そうかもしれないね?」
だんだんと繰り返される内、アオイの中に変化が起きた。
ーーハルマのそんな顔、見たことないよ。私の名前を呼んでおいて、そんな顔でヒマリの話をするなんてやめてよ。
ただの嫉妬。最初はそう思っても、モヤモヤとした気持ちはぐるぐる回りながら大きくなり、いつしかアオイ自身では抑えきれなくなっていた。
そして、自分の気持ちを自覚した頃、ヒマリから、ハルマが好きだと告げられた。2人は両思いだったのだ。
ーー私がハルマと喧嘩なんてしなければ。落ち込まずにすぐに仲直りしていれば。こんなに苦しまずにすんだのかしら……。
自覚した想いは、ハルマの幸せとヒマリの幸せと天秤にかけた結果、呆気なく負けた。負け戦に挑む惨めな自分を見たくなかったという気持ちも、少なからずあったと思う。
ーー私がきれいな心を持ち合わせていないことを、私が1番知っている。ここは、意地を張るところじゃないわよね……。
そう言い聞かせ、アオイがハルマとヒマリに協力的になった結果、あっという間に2人は付き合うこととなった。
ただ、明日は世界滅亡の日。
どうせ明日世界が塵となってしまうなら、せめて私の気持ちがあなたに届いてからがいい。
あなたにとって嬉しくない告白も、わかっていて強行する我儘も、全て全て塵となるから。
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