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私を出産して間もない母に、父は言った。 「ちょっと出掛けるけど一緒に行かないか?」 何かが引っ掛かった母は 「一人で行っていいよ」と答えた。 父はそれっきりで 母と私の元へは戻る事はなかった。 私がお腹に居る頃は、 両親はアパートを借りて、短い結婚生活を送ってはいたみたいだった。 父が蒸発して 母と私が帰る場所は無くなってしまったのだ。 病院の先生は 「この子はお母さんが連れて帰ってください。向こうの両親に預けてはダメだよ。」 祖母にそう言ったそうだ。 「はい、勿論です。」と、返事をした祖母は <絶対この子を幸せに育てる>と決心した。 そう教えてくれた。 母は一体どんな気持ちだったのだろうか。 私が母だったのなら… 深く傷付いたことは安易に想像できてしまう。 私にとって父とは 【はじめから居ない人】でしかない。 そして 【捨てられた】現実は 現実でしかないのだ。
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