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蒸し暑い夏の午後、水蒸気を限界まで含んだ雲は、夕立となって僕達に降り注ぐ。
「この水は循環して次はどこに落ちるのかしら。何度も繰り返し落ちてウンザリでしょうね。」
めぐりが長い髪を滴らせながらポツリと呟く。
僕は聞こえていないかのように振る舞いながら、彼女にタオルを渡した。彼女はこの頃感傷に浸るように言葉を紡ぐ。
「風邪引くから早く拭きなよ。僕はお風呂の準備してくるから。」
そう告げると彼女に背を向けてお風呂場へと急ぐ。
傍から見ると僕達は恋人どうしに見えるのだろうが、実は付き合ってはいない。
男女でのルームシェアは珍しいかもしれないが、これには理由がある。
僕達は互いに人を信用することができない。にも関わらず、他人に愛を求めることを辞められない。一人では心細くてこの世界を生きることができない。だから同じ価値観を持つもの同士で、傷を舐め合うように生活を共にしている。
勘違いしてほしくないので念を押すが、二人とも恋愛感情を互いに抱いていない。
しかし、この関係を説明しても理解してくれる人が少ないので、名目上は恋人ということになっている。
そして、僕には彼女に言ってない秘密がある。
この共同生活を、前の人生でも同じように彼女と行っていた記憶を持っているということだ。
前世でも僕は他人を信用できず、似た者同士であった彼女と出会い、生活を共にした。
その時も恋愛感情は無かった。
共同生活者として、困難を分割し幸福は各自で得ていた。決して互いの生活を邪魔せず、必要なときに必要なだけ交流をして、老後はそれぞれ別の施設に入って終わりを迎えた。
生まれ変わって彼女と出会ったときに記憶を思い出したが、懐かしい盟友としての認識しかなかった。むしろ類は友を呼ぶと言うように、互いに変わらない価値観を持っていたからこそ再び出会ったのではないかと思った。
しかし、前世と一つ異なる点は先程のように、彼女が感傷的な言葉を紡ぐようになったことだ。前の彼女なら絶対にしないと言い切れる。
彼女も僕と同じで記憶が戻ったのだろうか。
それならば秘密を打ち明けようか。
だが発言の内容からして、前世と同じような生活に辟易としているのではないか。そう考えると、今の生活に不満のない僕は、自らこの生活を壊すようことは出来ず、彼女の発言から目を逸らし続けるしかなかった。
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