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 江口が学校を辞めた、と聞いたのはその出来事から一か月後の事だった。  宮本はその知らせを相澤に聞き、職員室で唖然としていた。 「先月付で退職届は受理されているよ。ただ、挨拶がどうもできかねる、と断って、今月からいなくなることは黙っていてくれ、というのが江口先生の希望だったからなァ。悪い。宮本にも知らせることは出来なかったんだ」  ぐるぐると巡っていく宮本の頭の中。  一体、どうして?何が原因?自分には原因はないのか?  待機室での、あの出来事は?俺は一体、あの人に何をした? 「おい、宮本」  呼びかけられて、ハッとする。  完璧に我を失っていた。 「・・・あ、ああ・・・」 「大丈夫か?別に、お前の所為じゃない。そんなに気にするな」  相澤から優しい言葉を掛けられても、宮本は納得できない。  辞めてしまった、というのはどういうことだろう。  もう、ここには来ない、ということだろうか。  教師を辞めた、ということだろうか。  それとも、他の学校で・・・?  ぼんやりと考えながら教室前の廊下を歩く。  度々生徒とぶつかってしまって、ふらふらと歩く姿はまるで気力を失ったかのように見える。  どうしよう。  これから、関東の予選が始まるのだ。  どうやって生徒達を指導すればいいのだろう。  今まで江口がいなくても一人でやって来たのに、いなくなると途端に その重さがずっしりと両肩にのしかかってくる。心が重くて、どうも生きた心地がしない。何故、あの男は去っていったのだろう。  江口の連絡先を全く知らないことに気づいて、宮本は項垂れた。 (最悪だ)  心で呟いて、宮本は廊下の窓から空を眺める。  冬の空は薄く、千切れたあとのような雲が散在している。その風景がもの悲しくて、唇を噛んだ。 「何か言って下さい、先生」  寺坂の尋問に、宮本は閉口する。  部室前で、寺坂に捕まりこの様だった。
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