『やまない雨』

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あの日、昇降口で立ち尽くしているあなたを見かけた。 朝から降り続いていた雨に止む気配はなく、あなたの手に傘はなかった。 手にしていたビニル傘の柄をキュッと握りしめた。 数分間、あなたの横顔を少し離れたところから見つめていたけれど、遂にわたしは、声をかけることなく、その場を立ち去った。 いま、あなたはあの日と同じように、昇降口に立ち尽くしている。 ただし、あの時と違うのは、 いまのあなたには、待ち人がいるということ。 あの日、声をかけていたら、わたしがあなたの待ち人になれたのかな。 なんて、たられば話を浮かべながら、わたしはあなたの前を通り過ぎた。 あの日と同じように立ち尽くすあなた。 あの日と同じように朝から止まぬ雨。 だけど、時は流れていく。 あなたには待ち人がいるし、 雨は必ず止む時がくる。 わたしは、わたしだけは、あの日から降り止まない雨の音を、 この雨が止んでもきっと聞き続ける。 言いようのない後悔と自分の弱さを抱いて、 ずっと……。
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