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われる、とは全く言葉の通りで、それは張られた障壁を突き破ってきたのだ。え、無敵じゃないのは知ってたけど、割れるの、これ。 とはいえ勢いまかせに偶然壁をぶち破ったもんだから、照準までは合わなかったのだろう。運の良いことにかすりすらしていない。いや、運は良くない。
「…ここ以外の神域……いや、日が沈んだらもう」
「あら、有言実行」
「なんでそんな冷静に??!!?」
僕がこれからの展開に思わず冷や汗をかく中、少女は相変わらず冷静にそれを見た。
「とにかく、早く逃げ____」
そこまで言って言葉を切った。遮ったのは先ほどと同じような音だった。子供の腕ほどの細さの腕が銃弾のように上から降り注いできたのだ。
…いや、未然形じゃない。もう目の前にある。しかも、僕でなく真っ黒な彼女の方に焦点を定めて。
まあ当たり前だろうな、こんな鴨葱コンロ三点セットガスボンベ付き。頂かないわけがない。
その場に留まって動こうとしない彼女に、引きずり込むように怪異の手が伸びた。
「____っ」
「………あら」
彼女の体を手の伸びる向こう側へと、思い切り突き飛ばす。
彼女のもといた場所には僕が立つことになる。避けれるはずもない平手はまっすぐ肩に当たって、突き抜けた。端的に言うと僕の左肩がえぐれて吹っ飛んだ。
突き飛ばした勢いそのまま、僕はその場にべしゃりと倒れる。痛いのにはもう慣れたから、特になにも思うことはない。
「………は」
少女もまさか庇うとは思っていなかったのか、逃げるでもなく突き飛ばされたままの状態で、びっくり顔で固まっている。
まあ驚くよな。
でも、僕は本当に大丈夫なんだ。もうすぐ日も沈むし。
「ちょっと、お兄さん」
「あ、えーと、大丈夫。僕は大丈夫だから、君だけでも早く、逃げて」
「いや、そんなん言われても…」
「本当に大丈夫なんだ。もうすぐ夜がくるから。君は君のことだけ考えて」
言っていることの意味なんてわかりはしないだろうけど、もし生き残れたなら、その先を見たら納得するはずだからと。
だから、この場では見捨ててくれ。頼む。
「まだくるから、早く!!!」
初撃は避けたが、それでも文字通り、第二第三の手は彼女に迫っている。
そうだよな。餌は二つあるんだから、一個だけで済むはずないもんな。くそったれ。
また障壁が割れる音がした。彼女はまだ立ち上がったばかりだ。
「お兄さん、ありがとうね」
ああもう、お礼とかいいから。動いて、動いて逃げて。僕は大丈夫だから君は、
「はやく、逃げ____」
手はすぐそこに迫っていた。もう詰みだ。思わず目を瞑った。
「にゃん」
戯けたような声と同時に、ぶちりとかじり取られるような音がした。
想像していたものと全く違う展開だ。なにが起こったか把握するために、閉じていた目を開けた。
「あは」
真っ黒な少女は無傷。だけども、少女に伸びたはずの手は、食いちぎられたように長さが不揃いになっていた。
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