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今日もこの魔法学校では優秀な魔法使いを目指して、みんな頑張っています。
この学校の制服はデザイン変更されてから男子用も女子用もなかなかお洒落で人気があります。
ちょっと高いのですけどね。
もちろん旧デザインの制服も校則で認められていますし、実際に着てきている生徒も数名います。
今回は、そんな制服のお話です(たぶん)。
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アスロくんの制服はおじいちゃんの代から着古したもので、見る人が見ればかなり貴重な初期デザインです。が、正直、格好悪いのです。
古臭いうえに継ぎはぎもあるので、どうにも貧乏臭いのです。
さらに、着ているアスロくん自身がいわゆる非モテでした。身長はそれなりですが、髪は天パーであることをいいことにほぼ毎日手櫛でセット。丸メガネのニキビ顔。落第や留年こそしていませんが、成績はどれもギリギリの及第点……。
そんなアスロくんが着ているのですから格好よく見えるわけがありません。
ある体育の授業のとき(体育といっても最終学年においては怪物退治または素材収集です)、アスロくんは困っていました。
体育着が誰かにビリビリに破かれてしまっていたのです。
アスロくん的にはよくあることだったし、校則でも体育着はなんでも構わないとなっているので着替えればいいだけなのですが、今日は着替えがありません。
(しゃぁない、制服でいっか)
制服で参加することにしたアスロくん。しかし、問題が出てきました。この学校でのお約束というか、なぜか男女ペアを組んでの授業となっていたのです。ペアがなかなか決まりませんでした。
ペア分けは公平で嫌な人と組むこともあります。
アスロくんは誰とでも構わなかったのですが、お年頃の女子ともなると結構……、ね、気にしちゃうようなのです。
最初にアスロくんとペアを組むことになった女子は急にお腹が痛くなって保健室にいき、代わりにペアを組むことになった女子も頭痛で早退しました。
結局、メモンさんが組むことになりました。
メモンさんは口こそ悪いですが(いえ、素行もあまりよくないかもしれません……)、成績は悪くなくボーイッシュな見た目と性格もあって男女問わず人気がありました。
本心では適当な理由で休もうかと考えていましたが、だいぶ授業をサボっていたのでこれを休むと単位が足りなくなってしまうのです。
(よりによってアスロかよ、アイツ、魔力Cランクだよなぁ。うわっ、しかもあの制服じゃん、体育着どうしたんだよ……)
例の制服は噂によると、あんまり古いせいかキノコが生えているのを見た人がいるとかいないとか。
メモンさんのテンションはダダ下がりです。
一方、アスロ君は準備時間中に何やらせっせと短く詠唱しては、お団子サイズのマジックボールに魔力を込めています。
マジックボールは低学年がよく使うサポートアイテムです。詠唱が不正確で魔法が発動しなかったり詠唱する時間がないときなどに、その場しのぎで使われます。
メモンさんのテンションはもう底につきそうです。
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今回の授業は学校の裏山で狩猟許可の出ている怪物から卵を取ってくる、という比較的簡単なものでした。
制限時間は1日。校長先生監修の『狩猟許可怪物一覧』を携行さえすれば他の装備は校則に反しないかぎり自由。
アスロくんは夜には観たいアニメがありましたし、メモンさんはとにかく早く帰りたいということで、2人の意見は一致しました。
(とっとと終わらせよう!)
新型の風邪もうつらないくらい適度な距離をとって2人は走りました。
前衛をメモンさん、後衛をアスロくん。このフォーメーションはアスロくんが提案したものです。
森などの視界の悪いところでは背後からの襲撃に備えないといけない、と真面目に話していましたが、実のことろアスロくんは方向音痴ですし、なにより単純に尻フェチだったからです。裏山というだけあって上り坂が多いため、平地と違って躍動するショートパンツのお尻がアスロくんには眼福だったのです。
日も暮れそうなころ、裏山の中腹あたりでようやく、『狩猟許可怪物一覧』に出ているドエススライムの巣を見つけました。
大きな木の根の隙間を広げて穴を掘って巣にしていました。
さぁ、ここからが本番です。
2人はさすがに距離を縮め、まずゆっくりと巣に近づくと目を凝らしました。
こんなときですが、メモンさんのうなじから石鹸のいい香りがしてアスロくんはドキドキです💛。
メモンさんは近くに落ちていた棒を拾うと、巣の中に放ってみました。
……うなじからいい香りがします💛。
メモンさんは聴覚強化の魔法を詠唱して耳を澄まし、反応がないのを確認します。
……うなじからいい香りがします💛。
2人は巣のへりの盛り上がった大きな根っこに手をかけて、左右から中を覗き込みます。
……うなじの香りのかわりに中から生臭いにおいがすると、アスロくんは我に返りました。
2人の暗い視界のなかに何やら転がっているものが見えます。
学校ジャージを着た腰から下の部分と左腕でした。だれかが喰われてしまっているようです。
そしてもう一つ重大なことに気が付きました。
(卵が、ない!)
まず死体を見たら驚けよ、って話ですよね。でも魔法学校では教材で飽きるほど見せられますので、みんな慣れてしまうのです。
メモンさんは小声でアスロくんに確認します。
「ないじゃんっ、卵っ、てか、ドエススライムって卵産むの?」
アスロくんはプルプルと首を横に振って答えます。たしか、ぷよんと分裂して増えるとかなんとか。
これは引っかけ問題でした。『狩猟許可怪物一覧』の中にいくつか卵を産まない怪物を混ぜてあったのです。
校長先生の言葉が思い出されます。
『いいですか? 人生はどこまでいっても試験の繰り返しですヨ』
「……あのロリババァ」
2人は同じことを口にしていました。
メモンさんはとりあえず巣の中から遺体の一部を2人分拾うと、自分のポーチではなくアスロくんの肩掛けカバンに詰め込みました。
……カバンに血なまぐさいブツを入れられ、アスロくんは釈然としない表情です。
気にせずメモンさんは手をそこら辺の葉っぱで拭っています。
「校長先生なら復活させてくれるでしょ、そんな話聞いたことあるし、さ、つぎ行こ」
メモンさんが顔を上げるとアスロくんの肩越しに、イバラのムチを持った大きなドエススライムがいました!
……うなじからいい香りがします💛! と、メモンさんの視線をなぞるようにアスロくんも振り返ると一目で状況がわかりました!
「ちょっと! 逃げるよ!」
と、メモンさんに手を引っ張られ、こんなときでもやっぱりアスロくんはドキドキです💛。
(手、柔らけぇ……)。
家一軒ほどの大きさです。2人の魔法ではこのサイズのドエススライムは倒せません。剣を装備してきていない2人は逃げるのが正解です。
この魔法学校では剣技の授業もあるのですがあまり重要視していません。校則では物理的な武器の使用規定が細かくて、剣の場合まず魔法で作製してから使うか、事前に申請して既存のものを使うか、となっています。どちらにしても面倒だし、物理攻撃のために魔力を消耗するのもメリットが少ないと考える生徒が多いのも事実です。この2人もそんな理由で剣を持ってきていないのです。
2人は走りながら早口で筋力強化と痛み耐性強化の魔法を詠唱します。
今回もアスロくんが後衛です。暗くても道に迷うことはありません、こんな状況でも目はメモンさんのお尻をロックしているからです。
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ある程度の距離を取ればドエススライムは追ってこなくなります。たぶん縄張りみたいなものがあるためではないかといわれています。
あと30分ほど走れば学校に着くくらいの距離まで逃げてきました。
「ハァ、ここまでくれば、はぁあ、大丈夫だよね……」
メモンさんは息を切らしながら、追いついたアスロくんに言いました。
アスロくんは深呼しながらうなずきます。
メモンさんのうなじの香りに少し汗の匂いも混ざって、アスロくんにはご褒美でした。
「ちょっと、休憩」
メモンさんはぺたんと地面にお尻をつけました。
アスロくんはまだ深呼吸しています。スー(石鹸と汗……💛)、ハァ、スー(汗の匂いと石鹸の香り……💛)。
メモンさんが足の汚れを手でパンパンと払うと、アスロくんはつい、その足の付け根に目を凝らします。
(うーん、見え、ない……)
さらに目を凝らします。メガネを前後にズラして、さらに見ようと試みます。
さすがにメモンさんも気づいてアスロくんを睨みます。
アスロくんはそれでも目を凝らします。
「なに見てんだよ、キモっ! こっち見んな!」
「動かないでっ」
アスロくんはメモンさんの足に手を伸ばします。
メモンさんの足ににゅるっとした感触がありました。
「キモっ、触んな!」
「僕じゃないよ、それ……」
アスロくんが指さすメモンさんの足に、何かが絡みついてきていました。
触手!?
うおぁぁあうぁぁっっっ、メモンさんはびっくりして奇声を上げます!
メモンさんがお尻をのせていたのはアシナガオオムカデだったのです!
全長3メートルほどありますが怪物としては小さい方です。
ただし、毒があります。
「し、刺激しないほうがいいのかな?」
アスロくんは慌てながら腕を伸ばします。ん? アスロくん、何かに気がつきました。これってハグできるチャンスでもあります!
アスロくんは真剣に腕を伸ばします!
みるみるメモンさんの体中に触手(というか脚でしょうか)が絡みついていきます💛!
にゅるにゅるにゅるにゅる……💛。
アスロくんも頑張って、つま先から手の指先まで棒のように全身をピンとして腕を伸ばします! もうちょっとでハグ! せめてバックハグ!
お近づきになるのは誰でもいいわけではありませんが、メモンさんなら申し分ありません!
ハグハグハグハグハグ💛!
アシナガオオムカデはそんなアスロくんの青春の衝動を邪魔するかのように、トグロを巻いてその中心にメモンさんを連れていきます!
しばらくアスロくんも頑張っていましたが、結局、アシナガオオムカデの鉄壁の防御に阻まれてしまいました。
目の前にはメモンさんのあられもない絶景💛(アスロくん的に)。
アスロくんは制服の胸ポケットから何かを取り出します……。
メモンさんはナイフか何かを出すのかと期待しましたが、出てきたのはスマホでした。
「と、撮んなよっ、おまっキモっ!」
言われてアスロくんは我に返ります。あらためてナイフ(申請不要)を取り出すと、
「どこかを校長先生に持って帰れば……」
メモンさんの顔から血の気が引きます。
「バカっ、違うだろ! 倒せよっ、そのナイフでぇ!」
アスロくんは、そうかっ! と、ナイフをアシナガオオムカデに突き刺します!
パギンッ、と鈍い音がしてナイフが折れてしまいました。
「うあーん、アスロのアホ! 背の甲じゃなくて腹に刺せよー、ばかー!」
メモンさんは大泣きです。
「あ、ごめ、ゴメン」
メモンさんは気が動転して、もはや魔法を詠唱することもできません。
近接戦闘の場合は魔法より物理攻撃が適している場合が多くあります。
アスロくんはズボンのポケットから対怪物用スタンガン(申請済み)を取り出します!
そして大きなトグロの端っこを狙います……。顔は牙が怖いので尻尾のほうを狙います……。
足で尻尾側の甲を踏んづけると一気にスタンガンを突き刺しました!
とりゃっ!
バチ、ジジジジッと大きな音とともにアシナガオオムカデの輪郭が光りました。
……電撃浣腸をくらったようなものです。メモンさんに絡みついていた触手っぽい脚も、一瞬ピシッと伸びたかと思うと、ぐでっとほどけていきました。筋肉が弛緩したせいか卵管から細長い卵がいくつか出てきました。
メモンさんは口から泡を吹いています。感電して気絶したようです。
アスロくんはヌメっとした卵を手に取ると、しばらく考えたあとメモンさんのポーチにしまいました。
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「メモンさん、メモンさん」
アスロくんはメモンさんの顔を軽くたたいてみましたが、起きません。
「メモンさん、メモンさんてば!」
それでも起きないメモンさんを見て、アスロくんはゴクリと唾を飲み込みます。
視線の先にボーイッシュな割に大きめな2つの膨らみが見えます💛。
……今度は両手でお胸を軽くたたいてみました。
すぐに目を覚まし、アスロくんはぶん殴られました。
「なにした?」
メモンさんが着衣の乱れを確認して睨むと、アスロくんは外れたメガネを拾い血が出た鼻を覆いながら、ノびているアシナガオオムカデを指さしました。
「いはほうちににへよ(今のうちに逃げよう)」
メモンさんはうなずき走ろうとしますが、足がしびれて走れません。毒が回っているようでした。
2人の回復魔法では毒消しはできません。
アスロくんは少し考えると、しゃがんで背を向けました。おんぶしてやる、と。
「いや」
メモンさんは首を振ります。
しかたないなぁ、と、アスロくんは自分の肩を親指で指しました。担いでやる、と。
「やだ」
メモンさんはアスロくんの魂胆を見抜いていました。
「胸があたるから、い・やっ!」
アスロくんはがっかりです。仕方なくお姫様抱っこして逃げることにしました。これだと、よくて片乳しか感触が味わえません。
仕方なくメモンさんを抱えると、せめて、せめてでもと、大げさに身体を揺らしながらゆっくり歩きだしました。
「走れよ」
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痛み耐性強化の効果がまだ残っていて、足をくじきそうなガレ地でもヒョイヒョイと走ることができました。
もう15分も走れば学校というところで、背後からパキパキパキパキと小枝を折りながら何かが追いかけてきました。
もちろん、さっきのアシナガオオムカデ(面倒なので以下、ヤツと表記します)です!
「来てる! 来てるって!」
メモンさんは叫びます。
アスロくんも走りながら振り返ると、真っ赤になって湯気をまといながら追いかけてくるヤツが見えました!
「僕のカバンからマジックボール出して投げて!」
アスロくんがいうと、メモンさんは抱えられたまま慌ててカバンに手を突っ込むと、すぐにムカデに投げつけました!
……反応がありません……
アスロくんが振り返るとヤツは誰かのご遺体の一部を咥えていました。
「メモンさぁーん! あれは誰かの腕だってば! 丸いやつ、マジックボール投げて!」
メモンさんは慌てながらも今度は確認してから投げました!
ばばばっっと火柱が上がります!
次のボールを投げると、今度はまぶしく光が弾けました!
一瞬ヤツが怯んだように見えましたが、すぐに追いかけてきました!
「あと1個しかないよ!」
「いいから、投げて!」
エイッ!
マジックボールはヤツに当たりませんでしたが地面にぶつかると、バーンと空に花火が打ちあがりました!
怒ったヤツは体長の2/3ほどを高く起こして前後に振り、背の甲の隙間から針のようなものを飛ばしてきました!
最初は交わせていましたが、山をくだり学校が近づくにつれて木や岩などの遮蔽物もなくなり、次に針を飛ばされたら……。
筋力強化も痛み耐性強化も、効果はもう切れています……。
でも、学校はもう見えています!
ブッブッ、抱っこされているメモンさんの顔のそばで音がしました。
アスロくんの腕と背中に針が刺さっています。
すると、すぐ、キィーーーン!という甲高い音とともに、学校の方から2人のそばをかすめるように閃光が走りました。
光の矢は2人に迫るヤツを串刺しにしていました。
職員室の明かりを背に小さな女性の影が見えます。
裏山の騒がしさに気づいた校長先生が駆けつけてくれたのです。
2人は助かりました。
アスロくんは一度むぎゅっぅと両腕に力を込め、抱えたメモンさんの感触を確かめると、ゆっくりとメモンさんを降ろしました。
「大丈夫なの……?」
メモンさんが心配そうに聞くとアスロくんはうなずいて刺さっている針を抜くと、汗をぬぐうフリをしながら袖に残るメモンさんの残り香をかぎました。
「大丈夫。この制服、もともと軍服だったんだって。改造は校則違反だけど修繕は認められていて、継ぎはぎには魔法強化素材を使っているらしいんだ。だから防御力も今のデザイン制服の何倍かあるんだってさ」
「ふーん。そうなんだ、ま、ありがとね。なんかその制服からキノコ生えているの見たって話きいたことあって、ボロくて腐ってんのかと思ってたけど、いいね、その制服も」
メモンさんは安心したのでしょう、やさしく微笑みました。
「キノコ? あぁ、たぶんズボンのチャック壊れているとき見られたのかな」
アスロくんも微笑み返しました。
(……)
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翌日の結果発表によると全15ペア中、及第点は3ペア。もちろんアスロ&メモンペアもその3ペアに含まれていました。
学校に帰ってきたときにメモンさんのポーチの中にどろっとして異臭を放ちつつも、アシナガオオムカデの卵が割れずに入っていたため課題クリアとなったのです。
後日、アスロくんはメモンさんに新しいポーチの購入代を支払うことになります。
当初、アスロくんは自分のカバンも血生臭くなったからお互い様だと拒否していました。でもデザイン制服とセットのお洒落なポーチです、メモンさんは「値段がちがう! 」と。おまけに「あんたがお姫様抱っこしたせいで変な噂になって困ってるんだから!」とプンスカ無茶を言われ続けたあげく、メモン様親衛隊と称する連中からも嫌がらせをされるようになり、お互い様がメモン様に屈する形となったのです。
卒業後、目覚ましい活躍をみせる2人が、いまだに引きずっている腐れ縁はこのときから始まったようです。
そうそう、それと今回の授業で無事に生還できなかった生徒たちも、校長先生の手で蘇生されたそうですよ。
蘇生されたあと、なにやら上半身と下半身が一致していない生徒たちもいたとの話ですが、噂かもしれませんし、この魔法学校では校長先生は絶対です。魔女と呼ぶことは許されますが、悪魔女とかロリババアなどと陰口をたたくとなぜか数日寝込んでしまうのだとか……。怖いですね。まぁそんな校長先生のお話については、いずれ、また。
今日もこの魔法学校では素敵な制服を着て、みんな頑張っています。
(おしまい)
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