Ⅰ 初陣の軍船

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 さらに他の騎士団員達も全員違わず、対銃弾用の当世風甲冑に純白の陣羽織(サーコート)とマント、あるいはそれに準じるような白装束である。  兜も昨今流行りの帽子みたいな〝モリオン〟であるように、甲冑こそ戦の方法の変化によって今風のものになってはいるが、この〝神の眼差しを挟む羊角〟の紋章が入れられた純白の装束こそが、この歴史と伝統を誇る〝白金の羊角騎士団〟の結成当初から続く制服なのだ。  白金の羊角騎士団――そもそもは神聖イスカンドリア帝国を構成する領邦国家(※王国に満たない小国)の一つボゴーニア公国のフィリッポン三世という人物が創設した、このエウロパ世界の秩序の根幹たるプロフェシア教(預言教)を異教や異端から護るための宗教騎士団である。  だが、その本来の存在意義はすぐに忘れ去られ、王侯貴族の子弟が箔付けのために入団する有名無実の名誉団体とあいなり果てていたのであるが、フィリッポン三世の血を引くボゴーニア公カルロマグノ一世がエルドラニア国王となり、さらに神聖イスカンドリア皇帝に即位したことから(皇帝としての名はカロルスマグヌス五世)、この騎士団を再び本来の姿に立ち返らせようという動きが起こった。  そこで大抜擢されたのが、中流の騎士階級出身でありながらも、古代異教の魔法剣〝フラガラッハ〟の力とその才格で数多くの武勲を立て、帝国一の騎士を意味する名誉称号〝聖騎士(パラディン)〟に叙せられたドン・ハーソンだった。  ハーソンもその期待に大いに応え、皇帝お墨付きの団長権限で無能な貴族の子弟を団内から排除すると、メデイアやテイヴィアスのように、身分を問わず有能な人材を集めて騎士団を大胆に改革してみせた。  ちなみに副団長のアウグストも、ハーソンの従兄弟で下級の騎士であったのだが、その実務能力を買って引っ張ってきた者だったりする。  しかし、そうして実力ある精鋭部隊に生まれ変わった羊角騎士団ではあったが、彼らの主君カルロマグノ一世は、護教のためよりもより世俗的に彼らの力を役立てようと考えた……。  エルドラニアは遥か大海の向こうに〝新天地〟と呼ばれる新たな大陸を発見し、この地の植民地・鉱山経営によって巨万の富を手に入れるようになったのであるが、その〝新天地〟とエルドラニア本国との航路を荒らす海賊退治に羊角騎士団を投入しようというのだ。  そんな訳で、本来は宗教騎士団であるにもかかわらず、この〝アルゴナウタイ号〟が彼らに与えられたというわけである。  とはいえ、その新造軍船での演習も兼ねた最初の任務は、意外や本来の宗教騎士団的なものであったりするのだが……。 「しかし、最初の任務が敵国要人の護衛というのは、少々不満ではありますな……」  それまで暢気に歓喜の声をあげていたアウグストが、今回自分達の任された仕事の内容を思い出すと、不意にそのラテン系のダンディな顔を苦々しそうに曇らせる。
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