チェリー叔母さん

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「吉岡さん、さっきの続きですけどお仕事は何をされているんですか?」  はぐらかした旦那さんに聞き直した。旦那さんは一瞬きつい目を向けた。チェリー叔母さんが僕の膝を叩いた。訊くのを止めろという合図かもしれない。 「そんなに僕の仕事が知りたいの。いいよ、教えてあげるよ。経営コンサルタントと言ってね、まあ普通の人達にはあまり馴染みが無いと言うかずっと上の方の仕事かな。詳しく説明しても分からないと思うけど要するに会社を建て直す仕事だね。大阪では大手のデパートの立て直しに成功した。自分でも褒めてやりたいぐらい頑張った。それもこれも家を守ってくれる妻がいてからこそさ、なあチェリー」  旦那さんがチェリー叔母さんのほっぺにチューをした。チェリー叔母さんは作り笑顔を見せた。 「僕は法律家を目指していますが経営コンサルタントも将来考えています。吉岡さんはどちらの事務所にお勤めですか、それとも個人で」  チェリー叔母さんがまた僕の膝を叩いた、さっきより強かった。もういい加減にしろとの合図だろうが僕はこの男の正体を叔母さんの目の前で暴いてやりたかった。酒の勢いもあるがチェリー叔母さんを喰い物にされてたまるかという気持ちが言葉になってしまった。 「僕はずっと一匹狼さ、どこの事務所にも属さない。僕は個人プレーが得意だから嫌われるんだな。それに自分で言うのもなんだけど僕のように立ちまわれないよみんな、実に邪魔くさいんだ、仲間は要らない。大阪の大手デパートも直接経理部長から直々の要請だからさ、ま大学の同期と言うこともあるけどね。断るわけにもいかず半年もホテル住まいで休みなしだよ、妻には心配かけたけどここで投げたら男が廃る。見事に立ち直ったよデパート。僕が大阪を去る日に経営陣が総出で空港まで見送りに来てくれた。男冥利に尽きるね」 「どこのデパートですか?」  この質問をしたとき、チェリー叔母さんが僕を睨み付けた。こんな恐いチェリー叔母さんを初めて見ました。
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