あめ、あめ、あめ。

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 縁はちょこんと下駄箱の前に座って話し始めてしまった。まあ、彼女がマイペースなのも、天然ボケなのも、ついでに怪談大好きなのも今更である。どうせこの雨なら今すぐ飛び出していくこともできない。私も彼女の隣に座ることにする。 「今は、上に板を被せてあるし、使えないようになってるんだけど。それでも事故は起こりそうなものじゃない?本当は潰した方がいいんじゃないかって意見は何回も出てるんだけど、それでも壊せないのは……壊そうとするたび、人が死ぬことになるからなんだって。それも、何故か村の有力者が、雨も降ってないのにずぶ濡れで……溺れ死んだ遺体で転がり出るらしいよ」  女の子にしてはちょっと低くて穏やかな縁の声は、激しい雨音の中にあっても随分とよく通って聞こえた。  古井戸、と聴いて私は校舎裏にあった石の塊を思い出す。変な形の、汚い円柱があるなと思っていたが、あれは井戸だったのかとようやく理解した。元々や屋根や、水をすくい上げる盥なんてのも備わっていたのかもしれないが、経年劣化により失われてしまったのかもしれない。おかげで、私の目にはコケだらけで真緑になった、よくわからない石の物体があるとしか認識されていなかったのである。  まさかそんな、曰くつきのものだなんて。思ってもみなかったことだ。 「何かあったわけ?昔に。その井戸で人が死んだ、とか」 「井戸そのもので死んだのとは違うみたいだけどね。そもそもあの井戸って、昔の人は“神様が憑いてる”みたいに信じるくらい、神聖なものだったっぽい?」 「井戸に?神様ぁ?ていうか疑問形?」 「そのへん私もうろ覚えだからあんまツッコまないでよ早織ぃ。まあ、そんな大事な場所だったんだけど……時を負うことに信仰は薄れていってしまって、今は全然残ってないんだそうな。ただあの井戸に“何かいたっぽい”って話だけ残ってる、と。続きね。ある時この学校でいじめが起きてね。いじめられた女の子の一人が、井戸に突き落とされちゃったんだって」 「げ」  悪質どころの話ではない。それはもういじめどころか、殺人未遂でいいのでは、と思ってしまう。  大体、井戸というのは元々は飲み水に使う水を汲み上げていた場所であったはずだ。そんなところに人を投げ込むなんて、頭がイカレているとしか思えないのだが。 「髪の長い、とっても綺麗な女の子だったんだけど、それが他の女の子達には気に食わなかったらしいの。女の子の髪をハサミでざんばらに切って、その状態で突き落としたみたい。水が入っているから死なないし、一日くらいあとで引き上げてやればなんとかなるだろ、とでも思ったみたいで。胸糞悪い話だよね」
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