あめ、あめ、あめ。

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「ひっ」  小柄で可愛らしい縁の、一体どこからそんな声が出たんだろう。あまりにも低く、恨めしいその声に私は驚き、思わずひっくり返ってしまう。 「もう、早織ちゃん驚きすぎぃ!」  途端、普段ののんびりとした縁に戻り、彼女は私に手を貸してくれた。雨で冷え切った手はどちらも冷たい。私の場合は、無駄にかいてしまった汗のせいもあるのだが。 「そのあとの展開は、予想通りというかなんというか。女の子はハサミ一つで、クラスのいじめっ子達と、自分を助けてくれなかった他のクラスメート達と先生を切り刻んで殺してしまって。そのまま今なお行方不明なんだってさー。その日はすごい雨であっちこっち土砂崩れもあったから、雨の中逃げて巻き込まれたんじゃないのかって噂もあるらしいけど」 「そ、そうなんだ。怖いね……」 「以来、こういう長くて強い雨の日は、井戸の中から彼女が現れて……いじめっ子達を探して学校付近をさ迷うんだってさ!特に彼女は自分と同じ……中学生くらいの女の子を恨んでるから、それくらいの年の女の子を見つけると……」 「いやあああ!やめて、マジやめて!そのオチ本気で要らない!!」  なんとも意地が悪い。こんな雨の、それも学校からなかなか出られないような日に何故そんな怪談をするのか。雨の日に学校に行きたくなくなってしまうではないか――某ナントカ大王でもあるまいに。 ――ハサミって、基本挟んで切るもんでしょ。髪は切れても、人をそれで刺したり切ったりして殺すなんてできるもんなの……?  頭を抱えた私が、そんな想像をしたのを察したのか。縁が面白がって私の肩に手を回した。 「ふふーん、さらに怖い話を教えてあげようか?知りたいよねー早織ちゃん?あのね、クラスメート達の多くは即死じゃなかったんだって。指を切られたり首を切られたりお腹を刺されて抉られたり……細かい傷をたっくさんつけられてみんな死んでたらしいよ。教室は血の海。どうして彼らが窓やドアから逃げられなかったのかは、今なおわかってない謎なんだって。教室の中は血だけじゃなく、切断された指とか内臓の破片がわんさか落ちてたって。ハサミでも、人は殺せるんだよぉ?」 「だーかーら、やめてって……!」  その時。  しゃきん、と――ハサミを合わせるような音が、聞こえた。え、と私は思わず顔を上げる。そして。  気づいてしまった。目の前の昇降口のガラスに映るもの。  私の後ろから手を回してじゃれてきているのが、縁ではなく――ざんばらに長い髪を切られた、見知らぬ少女であるという事実に。 ――え?え……?  何度も見ても、瞬きを繰り返しても、映っているものに変化はない。  私が状況を理解できないまま、ゆっくりと血の気を弾かせている傍で。“縁”は心底楽しそうに、囁いてきたのだ。 「ハサミはナイフより、殺傷能力が低いから。……逆にとっても、残酷に殺されるの。それくらい当然よね、人を人とも思わない悪魔には」  しゃきん。  その音は、私のすぐ耳元で聞こえたのだった。
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