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あめ、あめ、あめ。
「あーもう雨雨雨!ぜーんっぜん止まない!」
私はぶう、と昇降口で頬を膨らませた。学校玄関の扉の前、ガラスには私の不機嫌な顔ががっつりと映っている。
「天気予報ではさあ、夕方にはやんでる筈って言ってたのに!こんなことならでかい傘持ってくれば良かったし!」
「だねえ」
怒る私の隣で、友人の縁はのんびりした口調で頷いた。
「早織ちゃんの折りたたみ傘、ちっちゃいもんね。この雨風だと壊れちゃうかもだし。かといって、突っ切って走れるような量でも距離もない、と」
「つまり傘ぶっ壊すか、ずぶ濡れで帰るかの二択?うっわー嫌だ」
「いや、傘ぶっ壊した挙句、ずぶ濡れで帰る羽目になる可能性もあると」
「その三つ目は本気でいらんかったよ縁ぃ……!」
なんでこうなるんだ、と私は頭を抱えるしかない。雨足はどんどん強くなる一方だった。校庭はずぶ濡れ、水たまりどころか殆ど海の状態である。これは明日雨が上がっても、外で体育の授業をしたり部活動をしたりというのは厳しいかもしれなかった。それ以前に、この中学校は恐ろしいまでに年季が入っているので、あっちにこっちにと雨漏りしているのである。びしょ濡れになるのは、屋外だけでは済まないのかもれいない。
もっと言えば、これだけの雨ともなると土砂崩れが心配だ。この村は、周囲を大きく山に囲まれている。大昔には、トンネルが崩れて陸の孤島になってしまったこともあるらしかった。元々地盤もあまり強くはないという。洪水になる可能性も当然ある。私の家はやや高台にあるので、そこまで流されるような心配はないのかもしれないけれど。
――普通、強くてきっつい雨っていうのは短い時間でやむのがデフォじゃないの?授業でそう言ってた気がするんだけど。
忌々しい、と私は灰色の空を見上げた。
止まない上に土砂降りなんて、本当に最悪以外の何物でもない。おかげで学校での唯一の楽しみと言ってもいい、部活動が中止になってしまった。今日こそは100mのタイムで、自己ベストを更新してやろうと思っていたのに。明日までやまなかったり、やんでもびしょびしょで再度部活が中止になったらどうしよう。一体誰を恨めばいいのやら、だ。
「雨といえばさあ」
緊張感ゼロの口調で、縁が言った。
「私、こんな怪談聞いたことがあるんだよね。聞きたい?うん教えてあげる」
「私何も言ってないぞー?」
「あのね、この学校って戦前からあるくらい古ーいところでしょ。今は水道が整備されててみんなそれ使ってるからいいけど、昔は井戸水組んでたわけなのね。学校の裏にも、それで使っていた古井戸がまだ残ってるの。コケだらけの石でできた、超古ーい井戸がね?」
「無視かーい……」
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