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その日の夜、息子を寝かしつけた後、私はソファーに腰をかけ一息ついた。するとその時、横から視線を感じて振り返る。
「...くま?」
ソファーの隣で、20センチくらいのクマのぬいぐるみがこちらを見て座っている。ふわふわで真っ白なクマは今日デパートで主人が息子に渡していたものだった。
(さっき片付けた気がしたけど忘れてたかな?)
私はとりあえず後で片付けようと、ソファーにもたれかかって目を閉じた。
その時ーー。
『そのままで寝るのか?化粧も落ちきっていないその顔で。』
「......ん?」
どこからか声が聞こえてパチっと目を開けた。だが辺りを見渡しても誰もいない。
「幻聴?私疲れてるのかな...もう寝よ。」
『だからその顔で寝るのかと聞いている。』
「え?」
もう一度目を開けて声のした方を向くと、目があったのは...クマ。
「は?!クマ?!今喋った?!」
『喋りかけたくもなる。俺の名前はスーパークマクマ。』
「ネーミングのセンスないって言われない?」
『本名ではない。』
「名乗るなら本名にしてよ。」
『本名はまだ募集中だ!』
「は?」
いきなり俺様目線で意味不明なことを言われ、私は顔を押さえた。
(やっぱり疲れてる...しかも重症レベル。)
するとクマが膝の上にヒョイっと乗ってきて、短い腕を腰に当て仁王立ちした。
(え?なに可愛い...。)
『今すぐに洗面所に行くぞ。』
「洗面所?なんでよ。」
『いいから早く!立て!』
「はい!」
ついついクマの剣幕に負けてしまった。私は重い腰を上げてとぼとぼと洗面所へ向かった。
中に入ると目を瞠った。そこには今日百貨店のコスメショップで見かけたスキンケアグッズが置いてある。
「なんで?」
『ご主人がお前の物欲しそうな視線に気が付いてトライアルを購入していたのを知らんのか。別れ際に紙袋を渡されただろ。全くどれだけ無頓着なんだ。』
(このクマ見た目は超絶可愛いのに致命的に口が悪い。)
私は訝しげにクマに視線を向けた。
『いいから俺の言う手順でやってみろ。まずは洗顔からだ!』
「え?あ、はい。」
確かに息子をお風呂に入れているとゆっくり自分を洗えないので洗顔も雑になっていた。
私はクマに従うことにした。どうせこれは夢だ。悪いようにはならないだろう。
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