戦いの後には…

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戦いの後には…

ひと通り佳奈から話を聞いた、暁斗と綾は、うつむく佳奈の表情を見ていた。ガラスに映る佳奈には、たくさんの霊が映っていた。 しかも、みんな怖い顔している。この世に未練を残し、自分を殺した相手を怨む人。自分を自殺に追い込んだ相手を怨む人。自分と同じ思いをさせようと、佳奈に取り憑いている人など…とっても重く息が詰まりそうな空気だった。 佳奈の表情も、さっきまで笑顔で話していたと思ったら、今は、綾を睨んでいる。しばらくすると、自分なんて生きてる価値ないと、自殺したい!と呟いていた。 このままでは、本当に自殺してしまう。しかも、私達が目撃者にされてしまう。なんとかしなきゃと、綾は、歴代陰陽師に問いかけた。この場所で行なって良いのかと… 佳奈の家には、地縛霊も居て、それを取り巻く霊の通り道を作ってしまっていた。 その通り道を塞ぐように指示が出たので、暁斗は、綾からもらった形代と札を床に配置した。その周りを綾が指で六芒星を交えて、描いていた。全ての準備が整ってから、その場所に佳奈を呼んだ。佳奈は、かなり抵抗したが、最終的に暁斗がなだめて、落ち着いた。 佳奈に取り憑いていた霊達が一斉に、綾を狙って現れた。その数は、凄かった。霊が綾に襲いかかろうとした時、激しい閃光が走った。そこにはあの歴代陰陽師が、綾を助けに来てくれたのだ。全員が呪文を唱え、低レベルの霊は、次々と成仏された。しかし、力のある悪霊は、なかなか消えない。 佳奈は、意識がなくなって、気絶していたので、暁斗も綾の力になればと、その場で、祈った。悪霊と陰陽師の激しい戦いで、強い風が吹いていた。暁斗と綾の赤い糸は、強い風でも、切れることはなかった。 安倍晴明が放った光の矢が、1人の悪霊の胸を貫いた。その瞬間に、他の霊にも光の矢が雨のように刺さっていった。彼らは、その後光の中へ吸い込まれていった。 部屋の空気が澄んでいた。戦いは、終わったのだ。歴代陰陽師は、綾に別れを告げて、消えていった。しばらく、綾は、放心状態だったけど…暁斗に抱きしめられて、意識が戻った。大事な綾があんなに頑張って戦ってくれたことに、綾のことが愛おしくてたまらなかった。その場で、2人はくちびるを重ねた。 ずーっと綾を守りたいと、暁斗は誓った。 もう、寂しい想いも、辛い想いも、1人で抱えることはない。2人で分ければいい。 暁斗は、プロポーズすることを決意した。 でも、ここではない。暁斗のお気に入りの場所で… 佳奈が目を覚まして、悪霊がいなくなったことを伝えた。そして、暁斗は、「僕の大事な人は、綾なので、君の気持ちには答えられない」と、キチンと断った。 暁斗と駅まで歩く空には、茜色に染まったキレイな夕焼けが見えていた。 お互いの小指には、まだ赤い糸が繋がれていた。
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