ホタルの夜に

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ホタルの夜に

暁斗は、綾に大学のカフェで美味しいランチが食べれるから、一緒に行こうと誘ってみた。綾が短大生の時は、お金がなかったので、いつも弁当を持ち歩いていたのだ。中身は…おかずも少なく、ふりかけや梅干しなどで、ご飯を食べるスタイル。だから、友達のいるところでは、食べれずいつも1人で、誰にも見られないところで、食べていた。 暁斗と校内を歩くと、たくさんの女子の目線が痛いほど、刺さってくる。しかも、「なんで、あの暁斗様の隣を、あのようなデブが一緒に歩いているの?」「私より顔は、幼いし、スタイルは悪いし、ブランド品も持ってない女よ。暁斗様の隣を、歩く資格なんてないわよ。」口々に言われた。綾も「そうだよねー。ごもっともです。私のようなアラサーと、この王子様が一緒に歩くなんて。ましてや、お付き合いしてるなんて…」綾の頭の中では、いろんな言葉がぐるぐる回って、倒れる寸前だった。 そんな時、暁斗は、綾を抱きしめ、「そんなに緊張しなくてもいいですよ。私は、綾のことを守りますからね。辛かったら教えてくださいね。」暁斗の優しい言葉に、綾は、溶けてしまいそうになるのだった。 暁斗が言ってた通り、カフェのランチは、とっても美味しかった。しかも、暁斗のおごりだし、綾は、暁斗にいつもおごってもらっているので、何かプレゼントをしなきゃと考えてた。綾の貢ぎ癖が発動しちゃうのだ。 そんなことを考えてコーヒーを飲んでいたら、暁斗が「大学のカフェや、学食で食べるのは好きなんだけど…僕は、虫が弱いでしょ。だから、1人でご飯食べれないんだよ。いつもは、斗真や涼がいてくれるので、虫退治してくれるんだけど…1人だと、虫が怖くて、倒れちゃくらいで、保健室へ運ばれるんだよね。でも、今日は、綾と一緒だから、僕もしっかりしなきゃ!って思ってるよ。」本当に、暁斗は虫がダメなんだなぁ。私が1人で虫ムシバスターズを結成して、暁斗を守らなきゃと思う綾だった。 「虫…そう言えば、昔、祖父の家でホタル観賞が出来て、その光がとてもキレイだったんだよなぁ。暁斗と一緒に観てみたいけど…難しいかな?」「祖父の家で、私が小さい頃に座敷わらしと遊んでいたことを思い出した。」綾は、暁斗にそんなことを伝えると、「ホタル観賞は、光だけ見るなら行ってみたいなぁ。それと、座敷わらしは、実際に体験したことないから、会ってみたいよ。」暁斗は、キラキラの笑顔で、綾にお願いした。 2週間後の週末に、祖父の家へ2人でお泊りに行くことを約束した。 ホタルも座敷わらしも、ちゃんと見れるように綾は、心の中で祈っていた。 祖父の家は、東北の山の中で、駅から車で1時間はかかる。でも、今回は暁斗の運転でここまで来たのだ。早く東京を出てきたので、寄り道しながらでも、祖父の家に着くのは、15時過ぎになった。久しぶりに祖父を会うと、綾は昔のことを思い出していた。陰陽師の家系で、厳しい特訓、いろんな怪との闘い、そんな中でも、やっぱり「座敷わらし」が思い出に残っているのだ。 夜になって、そろそろホタルが見られる時間になり、2人は、外に出た。夜空には、満天の星空。キラキラと輝いて、ホタルの光も幻想的で、まるで2人を祝福しているようだと、綾の頭の中は、少女マンガ脳になっていた。暁斗に抱きしめられ、甘いキスをされ、その思いは、最高潮に達していた。「このまま、ずーっと暁斗と一緒に居たい。もっと、暁斗とラブラブしたい。」こんなアラサーの綾に、「そろそろ部屋に戻りませんか?」と、暁斗が言う。「ん?」綾がキョトンとしていると、「やっぱり、虫が出てきそうで、ちょっと怖くて…早く部屋に戻りたいんですが、ダメですか?」怯えた子犬のように、潤んだ目で訴えてる暁斗に、「好き!暁斗が好き!」と叫んでいた綾だった。
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