雨合羽

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雨合羽

 今日は、当たると評判の天気予報が外れ、夕立に襲われた。なんとか近くのコンビニに逃げ込み、図書館で借りた本がびしょ濡れになるのは避けられた。スマートフォンのアプリで確認すると、しばらく雨が止む気配はない。生憎、折り畳み傘は持ち合わせていないし、今月の残りの所持金は1200円。コンビニに立ち寄ったのはいいものの、1本500円はする傘を買う余裕はない。早く家に帰って借りた本が読みたいのになんたる仕打ちだろう。ふと、傘立てに1本だけにささっている、持ち手が黄ばんで変色した、ボロいビニル傘が目に入った。こんなに使い込まれているなら、そろそろ買い替え時だろう、などと、自分の都合にいい考えが頭を掠める。家はここから走れば3分のところだ。借りるだけ、借りるだけだ。後で返しに来る。  傘に手をかけようとしたとき、男に腕を掴まれて、ぐいと、体を引っ張られた。 「ごめんなさい、傘を取ろうとしたんじゃないんです。すみません。本当にすみません。」  私は、猛スピードで謝罪の言葉を口にした。  私の腕を掴んだまま、その男は一言、 「変身。」  耳元で、そう、囁かれた。  まばゆい光に包まれたと思ったら、辺りにはコンビニの店員しかおらず、先ほどの男は消えていた。 あまりにも、不思議な出来事に、ハトが豆鉄砲を食らったみたいな顔で、暫し店員を見つめていた。  「お客さん、可愛い合羽ですね。」  店員が笑みを含んだ口調で言った。あわててトイレに駆け込み、己の姿を確認すると、私は、身に覚えのない真みどりの雨合羽を羽織っていた。おまけに、フードの部分には河童の顔がリアルにあしらってあった。  雨は、まだまだ止む気配はない。不思議な合羽ならぬ、河童を纏って、私は帰路についたのだった。
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