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翌日の昼休みから、神村奏を加えた4人で食堂に集まるようになった。
りんと奏のデュエット練習は、毎日続いている。
一か月ほど経った頃、二人は互いに下の名前で呼ぶようになっていた。
「奏、醤油とってくれる?」
自然と下の名前で呼ぶりんに僅かながら反応した康介。これまで男を下の名前で呼ぶのは康介だけだったというのに…。肩がびくりとなったのを、夏希は見逃さなかった。
「ねぇこーすけ。お水取りに行くの手伝ってよ」
康介はそれどころではないらしい。苛立っているのが伝わってくる。
「あ?んなもんお前1人でいけるだろ」
「いーから!4人分持ってきたいから一緒に来てよ」
「うっせーなー分かったよ」
水を取りに行ってくれるという夏希と康介に礼を言うと、奏は歩いていく2人を見ながら微笑んで言った。
「あの2人仲いいよね」
「うん、私もそう思うんだけどね~。一向に付き合わないんだよなぁ」
「前から2人と知り合いだったの?」
「いや、1年生の時夏希と私が同じクラスで、2年生で離れちゃったんだけど、その間に夏希と康介が仲良くなったらしい。それで今は全員同じクラス。夏希が間に入って仲良くさせてくれたんだ」
奏は最後の唐揚げを頬張った。「なるほどね。いい関係じゃん」
「まあ、もう3人組じゃなくて4人組だけどね~」
奏は最後の一人が自分だと察して少し照れ臭そうに笑った。そしてそれを誤魔化す様に「あ~確かにこれは水欲しい~」と言った。
その姿をぼんやりと見ていたりんは、まだ自分が全く食べ終えていないことに気が付いた。
いつもそうだ。
彼のことを考えると、なぜか何事にも手が付かない。集中出来ないのだ。初めての感覚だった。だが、彼といるとき、たった一つだけ集中の境地に達することがある。それがデュエットだ。
奏がピアノを弾く。自分がそれに身を任せる。ピアノにヴァイオリンが重なっていく。
意識がその場に戻ったのは、夏希の声を聞いた時だった。
「おまたせ~」と元気に食卓に水を運んできた夏希と康介。
康介が手を滑らせ危うく机にこぼしかけたのを支える夏希。「バカ~」と突っ込む夏希を見ていると、カップルですらないのに夫婦にも見えてくる。
目を窓の外にやると、外は落ち葉が目立ってきていた…。
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