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それから二人で各々弾いていた。
課題曲であるマスネの「 美しきロスマリン」だ。ヴァイオリンのピアノの協奏曲。課題曲はどちらも同じ曲なのか。
りんはふとピアノの方を見た。
先ほどまでは自分の練習に夢中で、彼の方を見ていなかった。気付けば、跳ねる様に全身で弾くため耳にかかるほどある天然パーマが揺れる様が美しい。真白なシャツに黒いズボン。まるで演奏会本番だ。
目線に気が付いたのか、青年が演奏をやめてこちらを見た。
静寂…。
りんが発した。
「ありがとうございます。せっかく集中出来る環境なのに、迷惑ですよね。」
青年は首を振って微笑む。
「そんなことないですよ。だって同じ曲だし、妨げにもならない。」
「あっ、お名前聞いてなかった。何ですか?ちなみに私の名前は佐々木りんです。」
「僕は神村奏」
「神村さん…、よし!覚えました。以後よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げたりんのことがまたツボに入ってしまったのか、神村奏はまた笑った。
そして、
「ヴァイオリン科の曲知らなかったけど、どうやら課題曲同じなんだね。良かったら一緒に演奏しない?」
この後、二人は20時ぎりぎりまで『 美しきロスマリン』を演奏していた。
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