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17時、先に部屋についたのはりんだった。
ヴァイオリンを取り出し、軽く知っている2,3曲を弾いてみる。慣らしてからマスネの「美しきロスマリン」を弾き始めた。
「美しきロスマリン」は、オーストリア出身の音楽家フリッツ・クライスラーによるヴァイオリンとピアノのための作品だ。ヴァイオリンだけで弾いていると、どこか物寂しい感じがした。これまでには感じたことのない寂しさ。いや、正確に言うと物足りなさだ。昨日のデュエットが忘れられずにいるのだ。
1回弾き終わる頃、ドアがバタリと音がした。
神村奏が入ってきた。
昨日より少しクリーム色のシャツにラフな黒のズボンだ。相変わらず育ちの良さを感じる。りんは久しぶりに緊張した。
「お待たせ、やる?」
この一言で、2人はピアノとヴァイオリンのデュエットを始めた。
20時になる頃、りんは着信音に気付いた。
『なつき』と書かれている。
「もしもし夏希?どうした?」
「り~んた~ん、どこいる~?来ないとか言うなよーーー。歌舞伎町の映画館前のカラオケ5階501室。すぐに来ーい!」
ブチ。電話が切れた。
どうやら酷く酔っているらしい。奥にいる康介の声も少し聞こえたが、彼も同様に酔っぱらっている様だ。
「ごめん神村くん。私ちょっと行くとこ出来た。先行くね。」
「どこに行くの?」
「え~と、、」りんが言い辛そうにしているのを感じとったのか、神村奏は「いいよ。分かった。行くね。」と言って部屋を出ようとした。しかしその後すぐ、気持ちが変わったのか振り返った。
「さっき、大きな声が聞こえたよ。一人で大丈夫そう?」
正直に言うと、りんは不安だった。2人の酔っぱらいを歌舞伎町まで迎えに行くのだ。無事に連れて帰れるか分かったものではない。
「ごめん…、本当に申し訳ないんだけど、一緒に来てくれる?」
2人は大学を出て、歌舞伎町のカラオケ店へ向かった。
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