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義父の死
義父が亡くなった。まだ60歳だった。心臓に病気を抱えていたとはいえ、家族にとって突然の死だった。
結婚三年目、結婚相手の和志の両親は身寄りのなく施設育ちのりなを本当に温かく迎えてくれた。りなと和志の住む家は義実家から電車で数時間の距離だがGWやお盆休み、年末年始は必ず二人で帰省した。お義母さんと二人で台所に立って料理をしたり、お義父さんに和司の子供の頃の話を聞いたり、お義父さんとお義母さん、和志と四人で団らんをするひとときは、子供の頃に味わえなかった家族のぬくもりをりなに与えてくれて、りなは本当に幸せだった。
『娘ができて嬉しい。』と喜んでくれた義父の笑顔を思いだし、夫婦仲が良く、夫の死を心から悲しむ義母を抱きしめ、一緒に涙を流しながらりなは言った。
『お義母さん、私達と一緒に暮らしてください。』
同居の話は、その場の勢いでいったことではなかった。
『母さんと同居なんて良いの?』
夫の和志が心配して尋ねたが
『もちろん!一人になったお義母さんを放ってはおけないわ。』
りなはきっぱりと言った。
『正直、俺も最近の母さんの様子は心配なんだけれど。。』
長年連れ添った最愛の夫を失い、義母はすっかり元気がなくなってしまった。
週末などを使い和志と二人でまめに顔を出すようにしているが、義母は最近食欲がないようで、短期間で痩せてしまったし、以前とはうってかわって口数は減り、りなや和志が話しかけると応えてくれるが、無理に作った笑顔が痛々しい。
このままでは義母まで病気になって倒れてしまうのではないかと二人は心配だった。
『本当に良いの?』という和志の問いにりながきっぱりとうなずいたことで、二人は次の週末に義母の所に行って同居の話を持ちかけることにした。
『二人とも今日も来てくれてありがとう。』
『でも、嬉しいんだけど二人ともお仕事もあって忙しいのに私のために無理しないでね。』
週末、義母の家に行くと、いつも通り二人を迎えてくれながらも心配そうにそう言った。
『大丈夫だよ。今日は僕もりなも仕事は休みだし。それに今日は母さんに話があるんだ。』
和志の言葉に
『そういえば、そう言ってたね。』
義母は頷くと、手伝おうとするりなを座らせて二人に温かいお茶を出してくれた。
そして、茶の間のテーブルに腰を下ろすと二人に向かって尋ねた。
『話ってなんだい?』
『母さん、俺たちと一緒に暮らさないか。』
『えっ?!』
和志の言葉を聞き、思いもかけなかったのか義母が驚いたような顔をする。
『ダメよ。夫婦二人の生活に私が入り込んだりして、あなた達に迷惑をかけたくないわ。』
言われたことを理解した義母は、顔の前で大きく手を降って否定する。
『迷惑なんかじゃないよ。家族だろう。最近の母さんの落ち込んでいる様子を見てると心配なんだ。』
『それに母さんと3人で暮らしたいってりなの方から言い出したんだ。な、りな。』
『もちろん!お義母さんが嫌でなかったらぜひお願いします。』
りなは和志の問いかけに大きく頷く。
その後も義母は遠慮してためらっていたが、和志とりなは言葉を尽くして説得を続け、最終的に義母は『ありがとう。じゃあ、二人の気持ちに甘えてお世話になるわ。』と承諾の言葉を口にした。
目のはしに涙を浮かべたその笑顔は最近見せていた作り笑いとは違い、心からのものにりなには思えたのだった。
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