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私は思わずその場に固まり、次の一歩が踏み出せなくなってしまった。
見ず知らずの男子生徒だった……おそらく悪気はなかったんだろう、思った事を素直に言葉にして──って、ガキかよ! お子ちゃまかよ!
この時の事に憤慨できるようになったのは、二十歳を越えてから、ようやく。つまり私は、顔のニキビが消えるまで、息を殺すように生きてきたのだ。おわかりいただけるだろうか。否、私と同じ悩みを持った者でない限り、この苦悩はわかりはしないだろう。だから私も責めたりはしない。
私はこの「入学式絶叫事件」から、毎日毎日スキンケアに明け暮れた。といっても、所詮は貧乏な高校生だ、高級なスキンケア用品には手が出せず、その為いついかなる時でも洗顔フォームを持ち歩き、学校でも隙あらば顔を洗う日々が続いた。
地獄のようなニキビの日々からようやく解放された私は、だが今度は、素肌を見せる事に恐怖さえ感じるようになってしまった。そこで編み出したのが、名付けて「ファンデマスク法」、簡単に言うと、数種類のファンデーションを、まるで仮面を付けているかの如く厚塗りするのだ。
厚塗りすればする程、私の顔は人形のようにツルリとして、「お嬢様」「お姫様」と称される私が完成した。そう称されたなら、そのように振る舞わなければ申し訳ない。私の人形のようなキャラはこうして生まれた。
もちろん、青春の黒歴史は二度とごめんだから、1日が終わったら丁寧に化粧を落とす。
丁寧に……
やってきたのに………
「うああああっ!」
私は大声で泣き叫びながら、さっき水洗顔しかしなかった事を猛烈に後悔し、いつもの倍の量のクレンジングオイルを高速で肌に塗り込んでいった。
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