見ざる、聞かざる、化けの皮

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 ぼてぼてと10分ほど歩くと、大きな公園に着く。緑が豊かで、小さい子どもの為というより、大人たちがのんびり楽しむような公園だ。  入ってすぐ、広々とした芝生が広がり、その奥に噴水がある。噴水のまわりにはいくつかベンチがあって、私はいつもそこに座ってぼーっとする。  ぼーっとしている私の足もとで、ハナマメがふんふんと草のにおいを嗅いでまわる。楽しいんだろうか。楽しいんだろう、たぶん。娯楽の少ない犬にとって、やっぱり散歩は大切だ。  とてもぼーっとしていたので、私は人影が近付いてきたことにさっぱり気付かなかった。 「桜井さん?」  突然声をかけられて、私は文字通り2センチほど飛び上がった。  びっくりして声のほうを見た私は、卒倒しそうになった──なぜ、なぜイケメン水島がこんなところに! 「やっぱりそうだ、桜井さんだ。おはよう」  くぅうッ! その笑顔、朝日よりまぶしいぜ! 「この近くに住んでたの?」 「えっ、あ、ああ、そうなの」 「へえ。今まで全然会わなかったね」 「え、ええ……」  私はさっさとイケメンから目を逸らしていたが、イケメンの視線が頬に突き刺さる。クソッ、視線で化粧が剥げたらどうすんだ! 「隣、座っていい?」  なにぃ!?  ついギロリと睨んでしまったが、イケメンは相変わらずイケメンで、にこにこ微笑んでいる。仕方なく私はベンチの端ギリギリに寄った。 「ありがとう」 「いいえ……」  ああ、気まずい。  座ることを許してしまった手前、さっさと帰る事もできない。こういう場合、何を話せばいいのだ……天気か、それとも世界情勢── 「犬、なんて名前?」  不意に問われ、またしてもビクリとしてしまった。落ち着け私。 「あ、あの、ハナマメ……」 「へえ、かわいい名前だね。豆柴だからハナマメ?」 「あ、ううん、私が花豆(はなまめ)好きだから……」  しまった、この答えは可愛くないぞ。
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