私の大事な、

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「げ」  鏡に映る疲労感丸出しの顔に、ぽつ、と浮かぶ赤い点を見つけた。 思わず声が出てしまうほどに衝撃的なそれを再び視認して、盛大に溜息をつく。そういえば最近、スキンケアもしていなければ、食生活も乱れっぱなしだった。どうしたものかと鏡の中の自分とにらめっこしていると、ピンポーン、と玄関のベルが鳴った。誰だろうか。ぱたぱたと玄関口に急いだ。 「はい―ー」 「うっわひでぇ顔」 「……」 「待て待て閉めんな」  まったくもって予想していなかった顔に思わずドアを閉めそうになるが、無理やりこじ開けられてしまった。私のほうが年齢が上とはいえ相手は成人男性、当然勝てるわけもなく。ひょいとドアを開けられてしまい、そのまま部屋への侵入を許してしまう。 「ちょっと、勝手に入らないでよ!」 「うわ、部屋もきたねえ。直近で掃除したのいつよ」 「……2カ月前?」 「終わってんな」  わざとらしいため息が聞こえる。うるさいな、と返そうと口を開いたところで、私は逆に黙ってしまう。それも当然だった。目の前の男は大きな荷物からごみ袋を取り出した。 「掃除すっから風呂でも入ってろ」 「……薫様……」 「おう崇めろ」  薫は、私の3つ下の弟だ。 化粧品会社に勤めていて、綺麗好き。そして口が悪くてなんだかんだ面倒見がよく、私の様子を抜き打ちで見に来る。以前来た時に悪ふざけでお母さんと呼んだら物凄いドスのきいた声で「あ?」と言われた。酷い弟だと思う。 「うわっ」 「風呂あがるなりそれかよ」 「いや……マジありがとね……」 「そう思うなら普段からやれ」  ぐうの音も出ない。 私は笑って誤魔化しながら、ふかふかのクッションの上に座る。そしてラックに綺麗に置かれていたドライヤーをとろうとすると、 「じっとしてろ。俺がやる」 「へ」 「どうせお前、適当に乾かしてんだろ。俺がやる。許せねえ」 「そこまで言うか」  私が突っかかるのを無視して、薫はドライヤーの電源を入れた。 正直面倒で普段適当にやっているのは事実なので、おとなしく乾かされることにする。 「……薫ー……」 「なに」 私は毛先を乾かされていることを確認しながら、頭をくっと上にあげた。 「あんがとね」 「……」 薫の大きな瞳がさらに見開かれる。不意をつけたかね、なんて思っていると、額にびしっと人差し指を突き立てられた。 「あだっ」 「……ウチのスキンケア用品、持ってきたから。次会うときまでに治しておけよ」 「……はぁい」 へへへ、と笑うと、今度は額にチョップを食らった。 「あれ、西原さん。なんか最近綺麗になった?」 「……しっかりものの弟のおかげですかねえ」
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